玉川上水(東京都)

 

・現在の玉川上水の姿

 私の家から徒歩5分ぐらいのところに玉川上水という川が流れている。五日市街道と平行に走っているその川は、豊かな緑に囲まれた散歩道をゆったりと歩くのにぴったりの場所である。ランニングやウォーキングをする人だけでなく、通勤、通学、買い物など通常の生活道路としても使われている。地面は落ち葉や木の枝などが厚くしかれているので、その上を散歩するとふわふわして森の中を歩いているように気持ちがいい。また、川の周りには珍しい植物が数多く植えられているため、写真を撮る人や絵を描く人も頻繁に見られ、川にいる生物たちと一緒に自然をにぎわせている風景がよく目に入る。まさに人間と動植物が一体となって共存しているのだ。天気が良いときに橋の上から下の川を覗き込むと、水が透き通っている。中にはきれいな色をした鯉がいくつも群れをなして橋の近くで楽しそうに泳いでいた。鑑賞ばかりではなく、隣で鯉たちに餌をやる人がいるので、魚たちが一生懸命近くまで寄ってくるのだ。川沿いの両側の土手では木の根が露出しているところが多く見られる。その原因については、根元の土が風に吹きとばされたり、雨つぶに洗い流されたり、そして長い間人々に踏まれ続けるなどが挙げられるらしい。そのようにして両側から木が川の中央のほうに寄り添い、玉川上水をしっかりと守っているように感じさせられる。

 

・私と玉川上水の関わり

 私と玉川上水との出会いは7年前来日した時から始まった。家の近くにあるため、中学生の頃から休日になるとよく家族と一緒に川沿いの散歩道へ出かけた。楽しくおしゃべりをしながらふわふわしている土を足にして自然を味わうことができるのだ。私の家族にとって玉川上水は、いわゆる運動と交流を共にできる大切なところなのだ。高校に入ると私は毎日往復の通学路で玉川上水を自転車で通ることになった。家から玉川上水沿いの散歩道と平行している道路を、三つ目の新小川橋までまっすぐ進み、それから駅に向かった。そんな毎朝、私は自転車に乗って、木の間にいる鳥や虫の鳴き声、散歩する人々の声、それから川の音をとたくさん耳にし、玉川上水の自然からたくさんの元気をもらって一日を始めることができた。そこは春は桜がきれいに咲き、夏は緑が茂る小さなオアシスだ。秋は散歩しながら落ち葉とどんぐりをひろえるし、冬は雪の中の緑を楽しめる。このように玉川上水を毎日通っているうちに、四季の景色を目で楽しめるだけではなく、それと同時に季節の変化を身で実感できるのだ。大学に通っている今も、私は毎日玉川上水を通学路として使っている。

 

・20〜30年前の玉川上水の姿

 日本に住むようになったのが最近のことなので、昔のほうがよりきれいだったのではないかという予想をしながら、玉川上水の昔の様子について近所の人を尋ねた。しかし、すぐに自分の予想が外れたということがわかった。なんと30年ぐらい前に、玉川上水の水を小平監視所から東村山浄水場へ送水したことがきっかけで、小平監視所より下流が途絶えていたそうだ。その後の1980年代に、東京都の「清流復活事業」により、小平監視所より下流は清流がよみがえり、これを記念するために「清流の復活」碑が建てられたという。また、玉川上水に流れている清流は、多摩川上流処理場の処理水をさらに砂ろ過したものが利用されているということだ。周囲の様子については、今とあまりかわらないようだ。散歩道も植物の種類も今とほぼ同じで、唯一違うのが昔の川には柵ができていなかったということだ。その理由についてはよくわかっていないが、おそらく川で活動する人々の安全面を考慮して作られたのではないか、というふうに近所の人から聞いた。川の水について尋ねると、当初は今みたいに透き通っているわけではなく、かなり汚れていたため、鯉はいうまでもなく、ほかの生き物でさえこの川に住んでいなかったという。私はこれを聞いて、昔の教訓があったからこそ今のきれいな玉川上水が存在し、人間が失敗を繰り返さないように川と自然を守り続けていきながらそれらと共存できているのではないかと思った。

                      
 
      <図1> 空掘になった玉川上水路  <図2> よみがえった玉川上水
 

・玉川上水についてのWeb-pageとその現状

 玉川上水についてのWeb-pageを検索してみると、その数が驚くほど多数存在していることがわかった。その中で玉川上水に関する歴史的な経緯や役割などを含めた概要説明と、玉川上水緑道に関する地域ごとの散策情報が圧倒的なもので、それから玉川上水にかかるすべての橋についての細かい紹介や周辺有名な植物を紹介するページまで数えられないぐらい情報が溢れた。しかも、文字ばかりではなく、玉川上水の昔と今の様子を鮮明にわかるような写真付のサイトがほとんどだったので、川そのものの姿と周辺環境の変化を理解する手助けとなった。

 このように、玉川上水に関するさまざまな情報を調べていくうちに、玉川上水の存在および人々が玉川上水へ寄せる関心や希望を感じることができた。「清流復活事業」が成功して以来、玉川上水の大切さが再確認されると同時に人々が川を守る意識が少しずつ高まってきたようだ。玉川上水が東京都のもとに置かれているため、川の環境が都の行政管理に直接かかっていると言えるだろう。川をよりきれいにしていくために、都が玉川上水を保全する姿勢を見せようとして次々と計画を立てた。最近では、2003年8月に玉川上水を文化財保護法に基づく国の史跡に指定したことなどが言える。そして2005年7月に「玉川上水保存管理計画策定に関する委員会」が東京都水道局内に設置された。また、民間においてもさまざまな動きが見られる。「玉川上水を守る会」や地元の住民たちが自発的に組織した団体が、各地域で玉川上水や周辺の緑の維持活動を定期的に行っている。さらに、玉川上水を世界遺産にしようという声まで上がっているらしい。玉川上水が国の史跡に指定されたのもこういった地域団体の努力なしには果たすことができなかっただろう。このように、川の環境は決して管理者側にだけ責任があるではなく、周囲の住民にも深いかかわりをもっているといえよう。人工的に作られた川にもかかわらず、玉川上水とその散歩道はたくさんの人のおかげでいかに自然らしい形におかれているかはそこにいる動植物を見ればわかるだろう。このような活動のおかげで、玉川上水を訪ねる人々がその自然に癒され、そして後世にそのままの状態で伝えてあげたいという気持ちがまた受け継がれていくのだ。

 

・私が期待する玉川上水の存在

 私の日本にいる年月が積み重なっていくと、それにつれて朝晩通る玉川上水に対する思いもどんどん深くなっていく。今はその道にあるものをほとんど知り尽くしていて、少しでも変化があるとすぐ気づけるぐらい玉川上水と親しくなったのだ。玉川上水には私にとって大事な思い出がたくさんあるので、その記憶をこれからもずっとそこにとっておきたい。だから、玉川上水および周辺の環境は今以上に重視され、より優れた状況を整えてもらいたい。水は空気と同様に人間にとってはなくてはならない存在だ。人間は自然を愛すると同時に自然にも愛され、その結果自分への愛にもなるのだ。玉川上水は昔も今も導水路として活躍し、人間のために役に立っている。玉川上水をより自然の形に近づけていくには、まず人間が川を守る意識を高めていくべきだ。

 

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