「水が与える生命体への影響」

 

豊富で、ありふれた、取るに足りないものだと多くの人が思っている水。故に、人間はその水を自分の物のように扱い、思うように使用してきた。しかし、そういった人間の行動、つまり、我々人類が水を粗末に、我が物顔で扱ってきた為に引き起こしてきた問題、水汚染による人体と生物への悪影響と、水をめぐる国家間の争いが発生することを例に挙げ、水には地球上の生物、人間に大きな影響を与える力があることを伝え、故に、水は非常に偉大なものであり、大切に扱わなければならないということを伝えよう。実は人体や人体のみならず、地球上の生物に多大な悪影響を与えていることが、現在、問題となっている。

土壌・地下水汚染により、人体や人体のみならず、地球上の生物に多大な悪影響を与えていることが、現在、問題となっている。人体が危険にさらされたことは、過去にも、現在にも数多くみられる。これから挙げる、足尾鉱毒事件や水俣病は余りにも有名すぎる事件である。19世紀後半に始まった日本の近代化で、当時、足尾、別子、小坂、日立の四大銅山が開発された。しかし、開発と同時に、足尾鉱毒事件と別子・小坂・日立煙害事件の四大鉱毒・煙害事件により、土壌汚染と農作物被害が引き起こされるという悲劇を招いた。足尾鉱毒事件は、鉱山排水によって硫酸銅、ヒ素、鉛、亜鉛、カドミウム等の重金属が渡良瀬川流域に流れ込んだことが原因の一つで、数万haにも及ぶ農地の作物被害をもたらした、最大の鉱毒事件であった。その後、四大公害に数えられるイタイイタイ病、熊本水俣病、新潟水俣病も水質汚染により発生した。朝鮮戦争による日本の経済復興とベトナム戦争中の高度経済成長の過程で起こったイタイイタイ病は、岐阜県の三井金属・上岡鉱山から排出されたカドミウムで神通川下流の農地土壌が汚染されたたことが原因である。その汚染農地から産出された、カドミウムを含んだ米を食べた富山県住民の多くが、慢性カドミウム中毒の骨軟化症になり、苦しめられた。水俣病は、20世紀最大の世界的な公害問題になる程深刻な問題であった。これは、化学工業のある過程で、触媒として使用された無機水銀が、有機(メチル)水銀に変化し、水俣湾に排水されたことが原因である。低濃度のメチル水銀をプランクトン類が吸収し、食物連鎖により生物濃縮され、高濃度と化したメチル水銀を含んだ魚を食べた水俣湾付近漁民達が中枢神経症を起こすメチル水銀中毒で苦しまされたのだ。日本では、熊本・新潟の二度に及ぶ水俣病で、約3000人もの水俣病認定患者と、約2万20000人以上もの未認定患者を抱えたことが報告されており、更に、日本のみならず、海外でも、中国吉林省の松花江で、水銀汚染によって魚が死んでいることが分かっているのだ。

また、人体のみならず、水汚染は、地球上の様々な生物の生命に深く関わっている。1988年、スカンジナビア半島からイギリスにかけての海で、アザラシが大量死した。有害化学物質や重金属の体内蓄積が影響し、ウィルス性の病気に対し抵抗力が弱まり、約二万頭ものアザラシが一年足らずで死んでしまったのである。この海域は、多くの工業区に隣接し、大きな河川が流れ込んでいるため、海洋汚染が深刻であった。科学物質は、生物濃縮によって生物の体内に蓄積される。プランクトン、バクテリアや小型の魚、それぞれが餌と一緒に摂取する科学物質は、食物連鎖により少量ずつ増えていく。そのため、最終的に大量の魚を食べるアザラシが、多量の有害科学物質を摂取することになったのである。また、海洋で使用されている有機スズ化合物によって、海に住む生物が減少し、インポセックスという異常が起こっている。インポセックスとは、船底に付着する貝を落とすための化合物が原因のため、海産巻貝類に見られ、雄の生殖器が雌にできるという現象である。症状悪化すると、輸精管の発達により輸卵管が塞がっていまい、輸卵管が開裂し、産卵障害、産卵不能になってしまう。こうして、雄しかいなくなった種は、交尾不能になり、次第に絶滅の危機へとさらされていくのである。他に、サンゴ礁の変質も挙げられる。オワフ島のあるサンゴ礁で、都市排水が礁池内に流され始めたことで、栄養塩の濃度が上昇し、サンゴの被覆率が低下、代わりに緑藻類が繁茂するという現象が起きた。サンゴのみならず、関連する動物も排出物に覆われって死滅してしまったのである。このように、水汚染は生物をしに至らしめる程の影響を与えるものである。もはや、この問題を無視して、水を祖末に扱うことはできないのである。

次に、水不足が国家間の争いをも引き起こすことがあるという危機につついて話したい。現に、オレゴン州立大学の教授、アーロン・ヲルフは、20世紀に起きた武力紛争の中の7つ(1948年インド対パキスタン・インダス川、1951−53年イスラエル対シリア・ヨルダン川、1958年エジプト対スーダン・ナイル川、1963−64年エチオピア対ソマリア・オガデン砂漠の水源、1965−66年イスラエル対シリア・ヨルダン川、1975年イスラエル対シリア・ユーフラテス川)が、国際危機と呼べて、水をめぐる対立が原因一つとなっている紛争で、そのうち、4つが実際に戦闘状態になったと結論付けたそうだ。更に、部族間、共同体間、異なる利用者集団間、国内の州間などを考えてみると、かなりの数で小単位での水紛争が起こっている。一つの川をいくつかの国が共有している場合に、全ての需要をその川だけで満たすことができないことがあり、水をめぐる国家間の紛争は、そんな時に引き起こされるのだ。水を含め、資源を求めての争いには、3つの要因があると考えられている。それは、資源の減少、人口増加、不平等な資源の使用であるが、現在、これら3つの要因が揃っているところは無数にあり、特に、アラル海地域、ガンジス川、ヨルダン川、ナイル川、チグリス・ユーフラテス川では、2025年までに流域諸国の人口が45%から78%も増加すると見られており、その為、将来、水を求めての争いが起こることが大きな問題となっている。

 このように、人々が何も考えずに水を濫用してしまったことにより、汚染された水による、生態への被害が発生し、水は、生物の生命を脅かす存在へとなってしまった。また、水不足が国家間のみならず、国家内での紛争にまでも発展するという、恐ろしい可能性をも秘めているのである。このことにより、無味、無色透明であるが、水は、地球生物や人類が被る重大な問題に発展する威力を持っていることが分かる。よって、水は何処にでもある、何の変哲もない、取るに足りない存在ではなく、地球上の全生物の命の運命を左右する鍵なのである。そんな多大な力を持つ水を大切に扱い、生命体への被害源とならないように水と接することが、人間に与えられた使命なのである。

 

参考資料

 

「海の働きと海洋汚染」原島省、功刀正行 1997年 裳華房

「水不足が世界を脅かす」サンドラ・ポステル 福岡克也訳 2000年 環境文化創造研究所

「土壌・地下水汚染 広がる重金属汚染」羽田明郎 2001年 有斐閣選書 

「水の生物学 水惑星と生命のしくみ」中村運 1992年 培風館

 

 


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