水=ありふれたもの?―貴重な水の話―

 

 みなさんは「水」と聞いて何を思い浮かべますか?いろいろあると思いますが、多分みなさんのほとんどは、「水ってどこにでもある、ありふれたものだ」とか「味もにおいも色もないから特徴なんてない」とかそういうイメージを持っていると思います。でも、実は水はありふれたもの、特徴のないもの、ではないんです。水はありふれた物質ではもはやありえないし、特徴は実はほかの物質よりもいろいろあるし、異常な物質なんです。・・・みなさん信じられない、という顔をしていますね。じゃあ、今日はその水の異常性と、水は貴重である、という話をしたいと思います。

 

 じゃあ、まずは、水が異常な物質である、ということを話したいと思います。まずは、身近なところから話したいのですが、水を凍らせると氷になりますね。体積はどうなりますか?氷のほうが大きいですね。じゃあ、ロウはどうでしょう?ロウを溶かしてオリジナルのろうそくを作ったことのある人は知っていると思いますが、冷えて固体になると真ん中が少しへこむ、つまり体積が小さくなりますね。実は、ロウに限らず、ほかの物質は固体のほうが体積が小さくなるんです。また、水に氷を入れると氷は浮くけど、ほかの物質は?沈んじゃいますよね。なんとなく、水が他とは違うな、ということがわかってもらえたでしょうか。これをちょっと科学的な話で説明すると、水以外の物質は液体から固体になると密度が大きくなる、つまり体積は小さくなります。仮に液体の密度を1とすると、固体の密度は1より大きくなります。一方、水に関しては、氷(固体)は水(液体)より密度が小さく体積は大きくなります。水の密度は1g/Dなのにたいし、氷の密度は0.92g/D。これだけを説明すると水は単に他の物質と正反対なんだ、というところで終わってしまいますが、実はここからが水のすごいところなんですよ。水は液体の時は他の物質のように温度が上がれば上がるほど密度は小さくなっていくんです。氷ほどの密度にはなりませんが。でも、0℃から4℃の間だけは、逆、つまり温度が上がると密度も大きくなっていくんです。つまり、氷が0℃で溶けるときに一回密度はぐーっと大きくなって、そこから4℃までは少しずつ密度が大きくなっていき、4℃より温度が上昇すると密度は小さくなっていく。ちょっと変な物質、ですよね。でももしこの性質がなければ、氷は水の下に沈んで水をどんどん冷やして氷をつくり、その氷が南下していくと南でも海水が氷になってしまう。最後には地球は氷に覆われた星になってしまって私たちが生きることができなくなるかもしれないんです。そう思うと、この異常さに感謝せずにはいられませんね。

 もうひとつ、水が異常だという例を挙げてみましょう。水は他の物質よりも温まりにくく、冷めにくい液体です。水の比熱、つまり1gの物質を1℃上げるのに必要な熱量は他の物質よりも高いので温まりにくく冷めにくいのです。これが実は、私たちが生きていく上では大変都合のいい性質と言えるのです。例えば、水のほとんどない砂漠では昼間は耐えられないほどの暑さになりますね。記録によると、中東のイランでは87℃まで気温が上昇したことがあるそうです。想像もつかないくらいの高温ですね。でも、砂漠でも夜は涼しくなります。意外なことに、何かかけないと寒くて眠れなかったりするんですよ。でも、川とか海に囲まれたところでは、あまり激しい気温の変化は砂漠と比べるとありませんね。別の例だと、鉄は熱するとすぐ熱くなってしまうけど、水は鉄と同じ時間熱しても同じ温度にはなりませんよね。このように、水は急激な温度の上下をしないので、体の7割が水でできている私たちの体の温度は、外気の気温が変化するように大きく変化しないで安定していられるのかもしれないですね。私たちが夏も冬も、アラスカでも中東でも生活できているのは体内に水という異常な物質があるおかげだと言えます。

 他にも水は分子量が少ない割には沸点が高かったり、氷を溶かすには実は大きなエネルギーが必要であるとか、表面張力が異常に大きかったりするとか、あとは分子構造を見るとおかしなつながり方をしているなどなど、水の異常性に関しては本当にいろいろあるのですが、このあたりで水は特徴のない物質ではない、実は水は異常なのだという話を終えて、次は水が貴重な物質であるという話をしたいと思います。

 

 現代の日本に住んでいるみなさんにとっては、飲むことのできる水は水道をひねったらすぐに出てくる、ほんとうにありふれたものと思うのはある意味では当然かもしれません。でも、目を世界中に向けてみると、飲むことのできるくらいのきれいな水を手にいれることの出来ない人は10億人も存在しています。つまり、世界の6人に1人は衛生上よくない水しか飲むことが出来ません。イギリスのBBCのレポートによると、「中東では石油よりも水は貴重な資源である」そうです。日本にいる私たちには想像がつかないかもしれません。でもこれが事実なんです。食料はおろか、水さえも口にすることが出来ないまま死にゆく子供がいるということが、水が争いのたねになる地域があることが。「20世紀は領土紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になる」と言われるくらい、水問題は深刻になってきているのです(世界水ビジョン)。

 一方、私たちが飲んでいる水も本当に「きれいな」ものでしょうか。水道の蛇口をひねって水をコップについでみるとわかるように、水道水は白く濁っています。水はとても塩素臭いし、飲めたものではありません。これは取水先の水がどんどん汚くなっているから薬品を大量に入れないとどうしようもなくなっているからです。私たちが普段使っている水は無色・無味・無臭ではないのです。今までのように水を使って汚しつづけたらどうなるか…答えはすぐに出てくると思います。

 もしかしたら、水は無限にあるから少しくらい汚したって大丈夫、なんて考えを持っている人がいたら危ないですよ。じつは、地球規模で考えても水は有限な物質なんです。地球の誕生以来、水の総量は変わっていません。地球の中で水は絶えず循環しています。地表で温められた水が水蒸気となって上昇し上空で雲となり雨となって地上にまた戻ってくる…。あなたが使った水は排水として流され、一部は蒸気→雲→雨の循環をたどるし、また一部はさらに大量の塩素を加えて殺菌してまたあなたの家の水道に戻ってくる、というふうに汚した水は回りまわって自分のところに戻ってきてしまうので、きれいな水がいつまでも自分のところにあるなんて思うのは間違いです。私たち人間が飲める淡水になるとその量はなおさら限りあるものです。これで、水、とくに私たちが生きていくのに欠かせない水がもはやありふれたものでなく、貴重なものであることがわかったと思います。

 

 せっかく水の異常性と貴重さを知ったわけですから、最後にみなさんに考えて欲しいと思うことを述べて終わりにしたいと思います。まず水という物質をもっとよく知ること、知ろうとする姿勢を持ってください。今までみなさんは水についてあまり深く考えることはなかっただろうけど今日の話を機にもっと水に興味を持ってください。そうすればおのずと水に対する見方も変わるでしょう。そうしたら思ったことを実行にうつす番です。Think Globally, act locallyと言う言葉があるように水とその問題を自分たちの問題であると、世界の問題であると捉えて、その問題に取り組むために今ここで何が出来るかを一人一人考えて実行してください。答えはみなさんの中にあります。

 

 

参考資料

水の科学・科学館 http://homepage1.nifty.com/shincoo/m131kagaku1.html

世界水ビジョン http://www.idi.or.jp/vision/wwv-01.htm

BBC News

http://www.news.bbc.co.uk/hi/english/static/in_depth/world/2000/world_water_crisis/default.stm

授業の講義資料

 


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