“水” 

〜水、生命そのものとしての存在〜

061356 中川 友紀子

 

【話の要旨】

 絵1

この絵には何が描いてあるか? 私も今のあなたと同じ年頃には「無人島と人」と言うだろう。なぜなら、私もあなたのように水は「あって当然のもの」と思っていて、目を向けた事がなかったのだ。しかも、私は小さい頃、水はタダなのだと思い込んでいて、水の無駄遣いを注意されて初めて水は限りのあるものだと知ったのだ。だから、私自身、最近まで水は無味、無臭、無色透明のなんでもない存在としてでしか認識していなかったのだから、あなたがそう思う気持ちもよく分かるのだ。しかし今の私はこの問いに対して、「海と人」いや、「水」と答えるかもしれない。なぜなら、この絵のもの全てを「水」色で塗ることができるのだから。まず、水の特徴を述べてから、この絵をparts毎に説明していくとしよう。

 

〜水の特性〜

 水は、他の物質とは違う性質を持っていることを知っているか?もしかしたら、水の状態を基準として、他の物質が特異だと思っていたのではないだろうか?でも、実は特異なのは水の方なのだ。温度・圧力で三態に変化する水は他の物質と違う性質を持っている。そして、その性質のおかげで地球上全ての生命が保たれているのだ。

1.固体が液体より軽く浮く

物理法則として、物質は温度が下がるにつれて密度を増し、液体から気体、液体から固体へと変化する。しかし、水は温度の低下と共に密度を増し容積が減少するが、摂氏4度に達すると突然膨張し、氷点の0度では容積が11%増加している。これは水分子の構造がある特定の角度を保っていることにより、自然に5個ずつ集まって規則的な多角形を作り、容積が最小にならないうちに固定し、そのために分子間の間隔が開き、固体の氷は多孔構造になり、密度も下がって、液体の水に浮くにまでなっているのだ。こうして氷が水に浮く性質のおかげで、氷が水底に沈んで地球上の水を氷で覆うという事がなく、生命が育まれている。

2.結束が固い

 水には伸縮性があり、水分子同士が互いに強く引き合うだけでなく、他の物質にも手を伸ばし、先に先にと進もうとしている。これは水が水素結合していて、そのために水原子が手を持っているからだ。それによって、起こっている現象が表面張力と毛細管現象だ。どんなに巨大な木も先まで水が行き渡って枯れることないのも、私達人間の血液の循環も、この水の特性である毛細管現象のお陰なのだ。

3.熱しにくく冷めにくい 〜エネルギー・スポンジ〜

 水は他の物質に比べて、熱を吸収し、蓄積する力が並外れて大きい。水は分子量の理論上では零下100度で凍り、零下80度で沸騰するのだが、実際の氷点は0度、沸点は100度である。これは水が熱を吸収するので温度が上がりにくく、その分エネルギーを容易に手放さないので逆に温度が下がりにくくなっているのだ。このおかげで、地球上に水が存在し、太陽からの熱を吸収して地球上の温度を調節しているので生命が保たれているのだ。

4.あらゆる物質を溶かし込む

 酸性でもアルカリ性でもない水は、あらゆる物質を溶け込ませるという性質を持っている。海や川の中にはあらゆる物質が溶け込んでいる。しかし、水自身には少しの変化もなく循環を繰り返しているのだ。この性質のおかげで、体内で食べ物が消化され、栄養分が血液によって循環しているのだ。

5.一定の形を保つ 〜生命の角度、104.5°〜

 「生命の角度」とも呼ばれる、この104.5°というのは、H-O-H間の角度のことである。これは、酸素と水素の結合対は酸素の電気陰性度が水素に比べて大きいため、酸素の方に幾分片寄ってできている。また、マイナス電荷の重心とプラス電荷の重心が一致しないため、水分子は極性分子であると同時に、水素結合を形成している。他のXH2形分子は90°という通常の角度だが、H2Oのみダイアモンド構造という安定した状態を保つ角度をしているのだ。この角度により、水が様々な性質を持っているのである。

 

〜水と地球〜

 これで水の特性が分かってもらえただろうか。それでは、この水の特性が地球上の生命とどのように関連しているのかを絵1を目次代わりとして解説していこう。

1水の循環

絵2

 地球が誕生した頃は表面の温度が高すぎたために、海・川・湖は存在せず、水は水蒸気として岩石中に存在していた。その後、火山の噴火で水蒸気が空中に出て、地球を覆う程の雲を構成し、地球誕生から7億年後(今から約39億年前)頃になると、地球上の温度が低下し100℃以下になり、雲の中の水蒸気が大雨になって降り地球のくぼみに溜まった事により海が誕生した。それ以来今日まで、水循環が繰り返されてきた。絵2のように、太陽エネルギーがエネルギー源となり、地球上の水の70%以上を占める海を中心として循環が行われている。蒸発量と降水量はほぼ等しくそれぞれ1年間に423兆トンとなっている。循環の中で37兆トンが海水から淡水に蒸留化製造されたり、陸地から蒸発する際に汚濁水を清水に浄化したり、蒸発により太陽熱による灼熱化を防ぎ大気温を和らげたり、河川水は水資源として利用されたり、水力発電となったりし、さらに水蒸気が大気を移動させているので地球上の気象をコントロールしていることにもなる。つまり、水はただ循環を繰り返しているのではなく、その中で様々な影響を生命に与えているのである。もし水の循環がなく、蒸発のみしていったとしたら約3000年で水は地球上からなくなり、もちろん地球上全ての生命もなくなる。それほどに地球上の水の循環はバランスよく行われていて、なおかつ生命にとって不可欠なことなのだ。

2太陽系

 生命のある星は3つの条件が必要だという。1つは表面温度が適当であること、2つ目は液体としての水が存在すること、3つ目は利用できるエネルギー源があることだ。1つ目の表面温度の適温は太陽からの適度な地球の位置に関係する。金星は地球より30%太陽に近く炭酸ガスが多く存在するため、温室効果が強く表面温度は470℃となっている。火星は地球の1.5倍太陽から遠く、地表温度は零下139℃である。これら二つの惑星は地球と近いものであるが、生命が住める星の状態ではないのだ。しかし、地球もあと5%太陽に近かったら生物の住めない灼熱の世界だったろうと考えられている。2つ目は温度に依存した水の三態の変化のおかげだ。水星・金星のような灼熱の惑星は水蒸気が宇宙へ霧散してしまい、ごくわずかしか残らなく、火星より遠い惑星は水が氷の状態であるために永久凍土となっている。しかし、地球は水蒸気として大気にあり、液体として海や湖、地下水に存在し、氷そして固体状態を持っている。このように同時に3つの状態に変化する水は生命活動を可能にしているのだ。3つ目のエネルギー源は、40億年前、生命誕生以前に生命の関与なしに複雑な有機物質が自然合成され、エネルギーレベルがあがったおかげで生命誕生となったのだ。これら3つの条件で深く関係しているのは、「水」の存在であり、水があって生命あり、と言うことができるだろう。このように全ての条件が満たされた地球は多くの生命を育み、常にまた新しい命を生み出しているのだ。

  

3ヒト

 人間の体の約70%は水である。血液中の83%は水で、乾燥しているように感じる骨も22%は水なのだ。その生命の最小単位としての細胞にはタンパク質、核酸、糖質などの生体高分子や、脂質やイオンなどの構造でできているが、これらの諸要素を結び付けるのは原形質という形で存在する水であり、目に見えないほどの小さい細胞の中で水様分子が絶え間なく動き回って生命を支えているのだ。そのような細胞が20兆以上も集まってひとつの体を構成し、その表面を皮膚で覆っている。また、生後3日目の乳児は97%が水であり、顔に水を浸しても平気な顔をしている。成長すると共に体内の水分の率は減少するが、生後8ヶ月に81%、成人になると65〜70%と水の占める量はかなり多い。人は1日に1Pの水を飲料水から摂取し、1Pの水を食料から摂取している。また、同じ分の2Pの水を排出している。しかし、人の水利用は摂取だけでなく、様々な生活のステージでも利用していて、1人の人の水使用量は350Pとされている。最低でも150Pなくては人間は生きていけないのだ。体の水成分の2%が失われると人間はのどの渇き・痛みを感じ、5%減少すると幻覚を見るようになり、12%消失すると人間は死んでしまうのだ。人間は水なしでは4日ももたないと言われているほど、水は人間にとって不可欠なものなのだ。

4,5水利用

 地球上に存在する物質の全ての中に水分は存在する。例えばスイカは97%、トマトは95%、カエルは80%であり、驚く事に砂にも15%の水が含まれているのだ。また、農作物や産業物をつくるのに水を使う。例えば、牛肉100gを生産するのに2万倍の水を要するのだ。また、工業物に関しても同じことが言える。例えば、車1台を製造するのに450000Pの水を利用する。日本は様々な物質を海外から輸入し、また輸出ているが、このように輸出入品を通して日本は水を輸出入していることにもなるという考えがある。この水のことを「仮想水」という。日本は主に食料品で仮想水を輸入し、日本は仮想水を多く輸入する国であり、また工業物で輸出している国でもある。しかし、この目に見えない仮想水の存在は人々に安易に水交換をするのを許してしまっている。その結果、国ごとの水の量の差が今以上に開き、水紛争を起こすだけでなく、今は水が十分であっても将来危険性のある国も挙げられる。水は循環しているのだから困らないのではないか、とあなたは考えるかもしれないが、これらの排水は再生不可能のために再利用できない状態になっているのだ。

さて、地球の表面積の71%は水圏である。そのうちの97%が海洋となっている。この海洋の水が液体状態に保たれるには様々な影響のおかげであった。太陽は形成時、現在より30%明るさが低かったために地球の地表温度は0℃以下になって水は全球凍結していたはずだった。しかし凍結しなかったのは、海中に溶けなかった二酸化炭素が大気中に残り温室効果を保っていたからである。そして、太陽が明るさを持ち始めると共に、生物による有機物の生成などで二酸化炭素濃度は低下していったのだ。このように自然と保たれていった地球は現在、人間の欲求により危機に迫られている。機械などからの二酸化炭素の増加で温室状態が起こりはじめ、今まで保たれてきたコンディションは崩されつつある。これは、地球誕生まもない二酸化炭素の効果とは違い、人工的原因により起こったものであり、自然と二酸化炭素の低下を望むことはできない。他の危害として水質汚染があり、この水質汚染は繊細な生態系を破壊し、水生生物を殺し、地域全体に感染症を拡大するだけでなく、水の供給を低下させ、水紛争というさらなる問題を引き起こすのだ。これら全ての問題の根源は人間であり、今、あなたや私が解決の道を開こうとしなくてはいけないというのはよく分かっているだろう。

 

 全てが偶然により保たれてきたように感じる地球上の水であるが、果たしてこれは偶然なのだろうか。もしかしたら、人間を超越した存在が行なったことかもしれないし、ただの偶然なのかもしれない。しかし、今、水が存在することは宇宙範囲で見ても稀なことであるのは事実で、その水の条件が揃っていることにより、生命が保たれているのだ。私が述べたように、地球上のあらゆる物質には水が存在する。人間はその中で水と強い関係を持っているのだ。ターレスは「水は万物の母である」という言葉を残し、老子も「水はその性、善にして、万物を利す」と言った。さらに、サン・テグジュペリは『風・砂そして感性』の中で「水は生命に不可欠であるというより、生命そのものである」と書いている。私は、地球は宇宙の中で最も恵まれた星のひとつであるように感じる。しかし、人間はそのことに気付かない。たしかに、水は「無味、無臭、無色透明で、ありふれた存在」と感じる程に身近な存在である。そして人間はその水の本当の価値を知らないために様々な問題を起こし、本来あった水の質とは違った状態に変えつつある。私は大学の授業で水の稀少さを知った。私はあなたも今日の私の話で少しでも水の大切さに気付き、また人間の起こした問題に気付いてくれればよいな、と思っている。今という時は、人間が「知り、行動すべき」存在であることを認識し、それをこれから共に広めてゆく時期なのだ。

【シラバス】(高校生に渡すプリント)

“水”〜水、生命そのものとしての存在〜

.水の特性

1. 固体が液体より軽く浮く

摂氏4℃での膨張→密度の減少・容積の増加

⇒水底に氷が存在しない

2. 結束が固い

   水素結合→水素の手を持つH2O

   ex)表面張力、毛細管現象⇒血液の循環

3. 熱しにくく冷めにくい

   熱吸収&蓄積力の大きさ

   ⇒地球上の温度調節

4. あらゆる物質を溶かし込む

   ⇒食べ物の消化、栄養分の循環

5. 一定の形を保つ〜104.5°〜

 

.水と地球

1. 水の循環

太陽エネルギー→年間423兆トンの水のやり取り

⇒蒸発時での汚濁水から清水への浄化     ⇒水資源・水力発電

⇒蒸発による太陽熱の灼熱化の防       ⇒気象コントロール

2. 太陽系

生命のある星の3つの条件

@適当な表面温度 A液体としての水の存在 B利用できるエネルギー源の存在

→全てに当てはまる地球

3. ヒト

70%:水分

1人1日の水使用量:350P

4&5.水利用

  仮想水

  水のコンディションの崩れ

   ex)水質汚濁→水紛争

 

サン・テグジュぺリ「水は生命に不可欠であるというより、生命そのものである」

 

【参考文献】

 

―『水の惑星』ライアル・ワトソン 

―『新しい水の基礎知識』久保田 晶治 オーム社

―『諏訪湖流域下水道の話』長野県諏訪湖建設事務所:

http://www.lcv.ne.jp/~suwa/original/rivers/rivers.htm

―『CLEANSUI』三菱レイヨン:http://www.mrc.co.jp/cls/mizu/mizu_kids.html

―『水と人間の共生』大崎 正治 人間選書

―『水web』:http://www.secom.co.jp/mizuweb/karada1.html

―『日本を中心とした仮想水の輸出入』: Musiake, Health, and Oki Laboratory

http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/Doc/MiyakeMizuFinal.doc

―『海と環境』日本海洋学会編 講談社サイエンティフィク

―『生命にとって水とは何か』中村 運 講談社

 

 


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