“水”〜見落とされた異常性〜

061284 真坂麻紀子

 

はじめに

 水の異常性に気づいていない高校生にそれわからせるために、私は彼(彼女)の意見を三つに分類し、反論していきたいと思う。つまり、「水は無味、無臭、無色透明である」、「物理的、科学的に注目すべき点もない」、「この地球上にどこにでもあるありふれた物質だ」という三つの考えは思い込みであり、事実に反するということを証明していきたいと思う。また、私は水の違いが料理と健康に与える影響について、興味深く思ったので、余談として語りたいと思う。

 

「水は無味、無臭、無色透明で」ない

 みなさんは当然水道水を飲んだことがあるだろう。そして、それはあまりおいしいものではなかったと思う。生臭かったり、何か化学薬品のような匂いがしたかもしれない。もしかしたら錆臭かったかもしれない。これらの原因は、水はどんな物質でも溶かし込んでしまうという特性があるからである。水の溶解度にはすさまじいものがあって、たとえばコップに注いだ水はコップの表面のガラスをも溶かそうとしているのである。水は純度が高くなればなるほど溶解度も高まっていく。蒸留を何度も繰り返して生成された非常に純度の高い水はハングリーウォーターと呼ばれ、パソコンの半導体などの洗浄に利用されている。確かに純度の高い水は「無臭」かもしれない。しかし、水の溶解度の高さにより、完全に「無臭」である水を自然界で探すことは難しい。

 また、後に詳しく説明するが、水道水とミネラルウォーターの味は違っていると思う。ミネラルウォーターの方が飲みやすく、味もおいしかっただろう。ミネラルウォーターは、ミネラルのバランスを添加によって調整した水のことなのである。このように味の違いを体験できることから、水は無味ではないということがわかる。

最後に、水は無色透明ではない。確かに蒸留水のような、または日本の一般家庭に届けられる上水道の水は無色透明に見えるだろう。しかし、それはそれらが不純物が少ないからであり、海や湖のような不純物を多く含んだ水は光を反射するときには青くなる。もちろんそれは水自体の色ではないが、透明だと思っている水の色も光を反射して私たちの視覚に入ってきている以上、水が無色透明だとは断言できないであろう。

以上により、水は無味、無臭、無色透明でない。

 

「水は物理的、科学的に注目すべき点」がある

水は他の物質とは異なった、または他の物質と比べて際立った性質がいくつかある。

まず第一に、水は他の物質と異なり、液体より固体のほうが密度が小さい。他の物質、たとえばロウやアルコールは固体のほうが密度が大きいので、液体の中に固体の状態のものを入れれば沈む。しかしながら、水の場合はその逆で、液体の水の中に固体の水、つまり氷を入れれば氷は浮く。これは、水以外の物質は個体に近づくにつれて密度が増すのに反して、水は液体のときの密度が4℃で最大となり、その後温度が下がっても密度が上がることはなく、むしろ密度が小さくなってしまうという事実があるからである。また、密度が小さくなるということは、体積が大きくなることを意味している。古代エジプトの人々はこの性質を利用し、ピラミッドを造る大きな石のひび割れに日中に水を流し込んでおき、夜に日々の中の水が凍ることで石を割っていたと聞く。このような現象は自然界でも見られ、昼に水を吸った木々が夜にはその木の中の水が凍り、膨張して木が割れてしまうことがあるそうだ。

次に、水は比熱が大きく、その比熱は液体アンモニアを除いたすべての液体と固体のなかで最大である。水の大きな比熱により、海は大気や陸地にくらべて大きな熱容量をもち、暖まりにくく冷めにくい。そのため、海は地球表面の温度変化を抑えるはたらきをし、温暖で気温の日較差の小さい海洋性気候をもたらす。また熱帯海域の表層に太陽放射による大量の熱をたくわえ、海洋の水循環を通じて高緯度海域に輸送して、高、低緯度地方のあいだの温度差を小さくするはたらきもある。さらに、融解熱はアンモニアを除いて最大なことにより水は凍りにくく、また氷は融けになっており、これによって高緯度地方の海水と大気の温度を氷点(凝固点)付近に保ち、変化を抑えるはたらきをする。このとき、塩分による氷点の降下と、それを上まわる最大密度の温度の降下は、さらに海水を凍りにくくし、海洋表層の冷却を促進する。

(参考資料:安田(1995)による〔『地球の水圏−海洋と陸水』http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/ES_SK_K1.html

 また、水の溶解度は非常に高く、身近に見られる液体の大部分は水溶液である。人間の体も70%近くは水であり、12%を失うと死に至る。水はすべての生物にとってかけがえのない存在なのである。

 さらに、水は水銀に次いで表面張力が大きいので、毛細管現象(細い管などに液体が勝手に染み込んでいく現象)が起こりやすい。植物はこの性質を利用して栄養分を溶かし込んだ水を根から吸い上げているのである。

 以上により、水は他の物資と異なり、固体のほうが液体より密度が小さく、比熱、融解熱、溶解度、表面張力で他の物質より秀でていることが判明したので、水には物理的、科学的に注目すべき点があるということが証明された。

 

「水はこの地球上にどこにでもあるありふれた物質」ではない

 日本に住んでいる限り、確かに水はありふれた物質に思えるかもしれない。しかしそれは現在日本ないしは水道設備の整った先進国に住んでいるからであって、水道施設の整っていない地域に民族単位で生活しているような人々にとって、水は貴重なものであり、決してありふれた存在ではない。上に水は溶解度が高いのでどのようなものにも含まれていると述べたが、それらは普段私たちが飲み水や生活用水として利用できるような類のものではない。

みなさんも、テレビのドキュメント番組などで飲料水を確保するために何キロも離れたところまで汲みに行くような生活をしている民族の姿を見たことがあるだろう。彼らにとって、水は決してありふれた存在ではない。

 発達していない地域でなくても、突然の災害により水飢饉に陥る可能性がある。実例を挙げれば、阪神淡路大震災の際には一時的に水飢饉の状態となった。技術の進んだ国での生活は一見安定しているように見えるが、自然災害にはとことん弱いのだ。

また、今後の世界の状況として、人口爆発が起こる可能性がある。人口爆発が起こったら食糧不足や水不足が懸念される。そのような状況に陥ったとき、水は貴重な存在となるのである。

以上により、水は地球上のどこにでもあるありふれた物質ではないとわかる。むしろ、ありふれた物質だと思って使うことは、水を大切に大切に使っている人々にとって失礼であると思う。水は大切に使うべき、貴重な存在なのである。

 

余談〜水の料理と健康に与える影響〜

先にミネラルウォーターとはミネラルを適度に含んだ水であると紹介した。ここでいうミネラルとは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄やマンガンのことである。また、水の口当たりを左右する硬度もミネラル分によって決定されるものであり、これは水のカルシウムとマグネシウムの含有量による。水は雨や雪が岩石の地下の岩盤などに浸透して、伝わって流れていく間に岩などに含まれているこれらのミネラルを溶かし込んでいくのである。そして長い時間をかけて涌き水として噴出してくるのである。

一般に、ヨーロッパなどの諸外国の水は硬度の高い硬水、日本の水は硬度の低い軟水である。日本の地下水は地下にとどまっている時間が短く、地中のミネラル分の影響が少ないため軟水が多いのだが、ヨーロッパなどの大陸の水は石灰岩が多い上に地価の滞留期間が長いために、ミネラルが溶けすぎてしまい硬水となるのである。

ヨーロッパでは硬度200〜300以上という水もあるほどで、軟水に慣れている日本人はおなかを壊して下痢を起こしてしまう。ヨーロッパでは水を飲まないようにするというのは、水の硬度が影響しているからなのである。また、ヨーロッパでは石鹸がほとんど泡立たないということがよくある。これは、硬水の中にはカルシウムやマグネシウムが多量に含まれているため、これらが石鹸の脂肪酸と結合し、水に溶けない形になって沈殿してしまうからである。

硬水・軟水の両方にそれぞれ長所と短所があり、まず硬水に関しては、長所は水を飲むだけで体の健康維持に必要な様々なミネラル分が摂取できることである。だから、スポーツ後などのミネラル補給に適している。スポーツ後のミネラル補給だけならず、妊産婦のカルシウム補給・ダイエット・便秘解消・消化器系疾患・リューマチ・腎臓・泌尿器へも良い影響あがある。また、硬度の高い水は人間の長に刺激を与え便秘解消に効果があるといわれている。顔にできるにきびや吹き出物の原因として、この便秘があげられることを考えると、美顔にも効果があるといえるのかもしれない。さらに、硬水の中でも特に硬度の高い水は飲むと重くて渋く、日本人には飲みにくい水であるが、この重さが胃に充足感を与え、余分なカロリーを取らなくてすむため、やせる水として知られている。ただし、人によっては下痢を起こす原因にもなるそうなので、用心が必要である。

反面、硬水の短所は肉などを煮込むと、食品の主成分であるたんぱく質や炭水化物、また脂肪分などがミネラル分と反応し硬化させしてしまい、肉などが硬くなり口当たりが悪くなってしまう。これはつまり、ヨーロッパなど硬水の水は料理に余り向いていないということになり、したがって例えばフランス料理では水を使うよりも、蒸すとか油でいためたり牛乳やワインを加えて似ることが多くなるのである。同じ理由で、ヨーロッパ諸国ではワインが作られている。ワインはぶどうを発酵させて作るのだが、ぶどうに含まれている糖分と水分だけを使うために水はいらないからである。ただし、ヨーロッパの中でもイギリスの水は軟水である。日本と同じ島国であるイギリスは、水の質も日本に煮て軟水なのである。そのためイギリスは水の影響を受けるウイスキー作りが盛んになったのだ。

また、硬水でシャワーを浴びると、髪や肌にミネラル分が残留し、髪はパサパサ、肌はガサガサという乾燥状態に陥ってしまいのだ。外国映画などで泡風呂の後、泡を流しもせずにバスローブを羽織るシーンなどが見られるのは、ある程度の保湿成分を含んだ泡風呂用のジェルの泡のほうが硬水より肌によいとされているからである。

一方、日本全体に及ぶミネラル分の少ない軟水の長所は硬水とは正反対で、肉などを煮込んでも肉などが硬くならないことである。特に、日本料理などのだしが決め手となる煮物には軟水が合うといわれている。煮物と同様に炊飯にも軟水がよいといわれている。これは、カルシウムには植物繊維を硬化させてしまう働きがあり、硬度の高い水は米をパサパサにしてしまうからである。酒に関しても日本酒にはおいしい水とおいしい米にこだわったものが多い。世界中のあらゆる料理の中でも日本料理ほどまず画重要な位置を示す料理はない。特に、日本料理の基本であるご飯とだしは水が味を決めるといっても過言でないほどである。それゆえ日本料理の世界では、昔から水の様々な利用方法が考えられてきた。例えばほうれん草や小松菜などの緑の野菜をゆでてから冷たい流水にさらすのは葉緑素を冷やして色止めし、緑の鮮やかさを失わないようにするための技術である。鯛の刺身を水にさらす「洗い」やあわびの貝を用いた「水貝」も、生臭さを洗い落とすのと同時に、刺身の鮮度を保つための先人の知恵である。しかしこうした日本料理は生活廃水や化学物質に汚染されていない美しい水が生み出した文化である。塩素たっぷりの水道水や、有機物に汚されたマンションの貯水槽の水では、その本当の味わいを生かすことはできない。また、こうした水道水に含まれる化学物質は米や野菜に含まれる貴重なビタミンまで破壊してしまう。

一方軟水の短所は、ミネラル分が少ないことで、日本人は慢性的にミネラル不足である。特に、カルシウム、また女性には鉄分が不足している。昔は日本の水で育った自然の野菜からこれらのミネラルは摂取されていたが、近年、ハウス栽培が盛んになったため、一年中好きな野菜が食べられるが、栄養面まではカバーできなかったのである。

硬水と軟水は場合に合わせて使うのが最もよいといえるだろう。

 

終わりに

 以上の考察により、水は無味、無臭、無色透明でなく、物理的・科学的に注目すべき特徴があること、しかもこの地球上のどこにでもある最もありふれた存在ではないことがわかっただろう。

 水は人間ないしはすべての生物にとって必要不可欠のものであるので、大切に使わなければならないと思う。水を粗末に扱うことは、自らの身を滅ぼすであろう。例えば、産業廃棄物を河川に流したりすればそれは臭い水として水道から出てくるかもしれないし、海洋汚染につながって、海産物に大きな被害が出るかもしれない。海における自然界のバランスが崩れれば、他の陸上の自然界にも被害が出るかもしれない。産業廃棄物を含んだ河川の水を木々が吸い上げて、枯れてしまえば自然界に影響が出るのはもちろんのことだが、地球全体の環境にも森林の現象による地球温暖化という形で被害が及ぶ可能性もあるのだ。

 水はかけがえのない存在であり、まるで自分の一部であるかのように大切にするくらいの意識があってもよいのではないだろうか。

 


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