水〜 三年B組金八先生 〜

051584 和田大輔

 

金八−よしみんな今日は水の授業をやるぞ。

田中−先生水ってしょせん無味無臭無色透明でさぁ、物理化学的に特に注目すべき点もないんでしょ。しかもどこにでもあるありふれた物質じゃないですか。

金八−田中、お前はなぜ今生きてると思う?親のおかげだろう。いや、先祖のおかげもあるだろう。しかしそうさかのぼっていくとお前が今ここに存在するのは水のおかげなんだ。そもそもこの地球上に水と言うものが存在しなければいかなる生命体も地球上には存在しなかったんだ。今からおよそ150億年前、ビッグバンという大爆発が起こってまず宇宙が誕生した。それからさかのぼること46億年前、地球の誕生と同時にある化学変化によって水も誕生したのだ。これは結果論ではあるが、この水の誕生が生命の夜明けと言ってもいい。今水が地球上の7割を占めていることはみんなよく知ってるだろう。実はこの量は46億年前から何も変わっていないんだ。水は46億年間その姿かたちは変われど、ずっとこの地球を循環してきたのだ。

田中−でも先生そういったってちょっとは減ってるでしょう。

金八−それがだな、ここからはちょっと難しいぞ。水、すなわちH2OがH2とO2に分解されるには大きなエネルギーが与えられなければならんのだ。これは自然にはありえない。そして逆に、水素H2と酸素O2は結合すると燃焼して熱エネルギーを放出しH2Oという安定な分子になる。これは自然に起こる。従って水の総量は長い年月変わらなかったということだ。

田中−へぇ。まるで生き物みてぇだな。

金八−はは。うまいこと言ったな。でも確かにそういっても過言ではないぞ。ここからは水の性質についてはなそう。水はまず固体、液体、気体に分類され、それぞれ融点と沸点がある。これはどの物質も同じことが言える。しかし水の他の物質と違う点はその性質にある。田中、お前確か水は物理化学的に特に注目すべき点は無いとか言ったな。まず言っておく。水は異常だ。比熱。これは1gの物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量のことだが、これはアンモニアを除く全固体及び液体の中で一番高い。この性質がその約6割が水である人間の体温を一定に保ってくれるし、地球の温度をもある程度一定に保ってくれているのだ。砂漠でさえも昼夜の温度差が30℃を越えないのは水のおかげだ。次に熱伝導率。物質内での熱の伝わりやすさのこと。これも全液体の中で最高だ。この性質は火傷の時によく役に立つな。熱を水が吸収してくれるからだ。また水は通常の物質と異なり、液体から固体になると密度が小さくなる。氷が水に浮くだろう。それが証拠だ。これは特に水にしか見られない性質だ。この性質ゆえに南北極大陸なるものが存在し、そこに生命が宿ることができるのだ。しかも氷はなかなか溶けにくく、圧力をかけると通常の物質とは逆に融点がさがる。だから南北極の氷はとけないんだな。

田中−先生、でも今南極の氷が溶け出して海面の上昇が問題になってるじゃないですか。

金八−うむ。それは後で話す。次に全ての物質には表面張力というのがあるが、これも水は普通の液体の中でずば抜けて高い。これは毛細管現象という水の最たる異常性に特に関連する。毛細管現象とは、水が表面張力によって、細い管の中を重力に逆らって移動することであるが、これは木の根っこに見られる。水がこの性質を持つからこそどんなに背丈の高い木であってもその先端まで水が行き渡ることが可能なのだ。最後に溶解力。水は大きな溶解力を持つ。水は全てを溶かすといっても過言ではない。現に水は長い歳月をかけて岩をも削ってきたし、その勢いとあたる面積を調節すれば鉄だって鋭く打ち抜くんだ。私達の身近に見られる液体の大部分は水溶液だ。牛乳だってお茶だってジュースだって、植物や動物の細胞、そしてみんなの中に流れる血や体液さえも水溶液なんだ。水は生命自身、私達自身なんだよ。田中、ここまで言ってもまだ水を取るに足りない物質だと言い張るか?

田中−いや、それどころか驚嘆と絶句の二文字ですよ。水がこんなにおくの深い物質だったとは。総量の普遍といい、驚くばかりのその性質の数々といい、先生、水って不死身なんですね。

金八−そうなんだよ。そのはずなんだよ。でも現実は違うんだなこれが。田中の言い方を借りると水は本来不死身なはずだ。自然のままならね。だがそこに自然ではない力を加えるとどだろう。おそらく水も死ぬ。すなわちあらゆる生命の死を意味する。それをやってきて今も行っているのが生態系のトップに位置する人間自身なんだよ。今世の中には水を、めぐる様々な問題が起きている。水資源の問題、水質汚染の問題、それから先ほど田中の述べた温暖化のよる海面上昇の問題。すぐ思いつくだけでもこんなにある。みんな驚くだろうが、今、世界の人口の1/3の人々が充分な量の水を確保できないでいる。これはただ単にその地域または国の降雨量が極端に少ないからではない。むしろサウジアラビアなどの中東の国は日本より年間降雨量が多いんだ。ではなぜ?発展途上国には浄水場や下水道をしくお金もなければ技術もないね。だがこれはまだ日本や他の先進国からの援助で解決するだろう。しかし問題は水自体が浄化できないほどに汚染されてしまっていることにあるんだ。しかもその問題の原因は私達先進国側にあるんだよ。国際取引によって先進国のだした有害産業廃棄物が発展途上国に越境移動され、それが酸性雨や海洋汚染につながる。また人口の増加、森林伐採や焼畑農業、過放牧などによる砂漠化の進行が水不足につながる。

田中−ちょっと待ってよ先生。焼畑農業や過放牧は別に俺たちは関係ないでしょ。

金八−そう思いたいとこなんだが、ようく考えてみろ田中。なぜ彼らが焼畑農業や過放牧をやっている、いや、やらざるを得ないかを。貧困による対外債務のためだ。彼らだってそれが環境に良くないことくらいわかっている。しかしそれが生きるための唯一の手段なんだよ。そして彼らの選択肢をそのように限ったのが私達先進国の人間なのだ。もともと私達がダムなどよりはるかに貯水作用の強い森林を過度に伐採しなければこのような深刻な事態には陥らなかったはずだ。彼らの生きるための唯一の手段が逆に彼ら自身の生命を危うくするとは皮肉なもんだな。でも危ういのは私たちも同じだと言うことを忘れるな。私達は私達の手でその首をしめてきたのだ。

田中−そんなこといったって俺たちにはどうすることもできないじゃないですか。

金八−確かに微力だ。だがやらないよりはいいことも明らかだ。ちりも積もれば山となる。今まで人間はそうやって水を汚してきたのだからな。今度は逆にそうやって水をきれいにしようじゃないか。世界を視野にいれつつ、自分はまず足元から行動しなさい。例えば、生活排水、生ごみを少なくするとか、中性洗剤を薄めて使うとか、車の排気ガスを極力抑えるとか、そういった些細なことからでいい。それが実る日が必ず来る。一緒に頑張ろうじゃないか。

田中−そっかぁ、そんなことでいいんだ。先生、なんだか俺やる気でできたよ。

金八−そうだ。いいぞ田中。今日は水について話したがみんなどうだったかな。最後にまとめさせてくれ。古代ギリシャのタレースという聡明な哲学者がこう言った。【万物の根源は水である】。実に的を得た洞察だ。生命は水、海から生まれた。人間もその進化の過程の一部だ。しかも体内に60%もの水、海を包括している。水が無ければ生きることができない。まさに水は空気のような存在、いやそれ以上で、人間とあらゆる生命と切っても切り離せないものである。いまこそこの地球の誕生、水の誕生、生命の誕生、人間の誕生という奇跡を改めて祝福すると同時に母なる水に恩返しをしようじゃないか。それが人間を、全ての生命を生かすとということだ。最後にもう一度言う。水について考えること。それは同時に人間のついて考えることであり、自分の人生の歩みを問うことなのである。 ん?どうした田中?

田中−ごめんよ先生。俺今まで水のこと馬鹿にしてた。何もわかってなかったよ。そう考えると情けなくて涙でてきちゃたよ。

金八−そうか。でももうそれに気づいたお前がいるじゃないか。大きな進歩だ。それだけでも今日この授業をした甲斐があったよ。田中、その涙大切にしろよ。あっ、ちなみにその涙も水の一部だからな。きれいな水のな。じゃあ今日はこれで終わりにしまーす。

 

*この授業はフィクション及び筆者の勝手であり、実在のドラマとは一切関係ありません。


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