水‐その特殊性とかけがえのなさ‐

 

  「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ。」というあなた達の主張はわからなくもありません。水は私達の生活の中にごくごく当たり前に存在しますからね。特殊な物質とも思えない。そしてどこにでもある。だからこそ古代ギリシアの哲学者ターレス(BC600)は「万物のもと(アルケー)は水である」と唱えたのでしょう。しかしこのような一般的(特に水が蛇口を捻れば出てくる日本において)な認識を裏切って、水はきわめて特殊で、そしてかけがえのない物質なのですよ。

 

■水の物理・化学的特殊性■

水は様々な点で物理・化学的に注目すべき物質です。以下に具体的に数点挙げてみましょう:

 

1. 固体になると液体のときより密度が小さくなる。

これは氷が水に浮くことから分かるでしょう。

2.同様の構造をしている物質と融点・沸点・蒸発熱が大幅に異なる。

水の化学式はH2Oです。これは皆さんご存知でしょう。同様の構造をするH2X(XはOと同族の元素とする)の融点・沸点・蒸発量を原子量順に並べてグラフ化した場合、ほぼ一定の傾きのグラフが形成されるのですが、H2Oだけはそのグラフの方向に従わず、極めて高い数値を示します。この現象は水素結合がもたらすものです。

3.水分子の形

水分子のH-O間の角度は104.5°。この角度が最も安定なのです。他のH2X分子では90°が安定なのですが、不思議なことにこの90°は水分子においては不安定形なのです。この原因は量子力学がつきとめていて、H2Oの最も安定な電子状態が上で述べたような状態なのだということです。

以上から、水が物理・化学的に特殊な物質なのだということを分かっていただけたのではないでしょうか。

 

 

■水は「ありふれている」か

では次に、水が「この地球上のどこにでもある最もありふれた物質だ」という意見に対して答えましょう。私が言いたいことは二つあります。それは、まず一つ目は、「水はありふれている」と感じるかもしれないけれど意外にありふれていない、ということ。次に、水が「ありふれている」からこそこの世界は成り立っている、ということです。矛盾してますね?

 

<水はありふれていない>

まず、水はありふれていない、ということ。これを世界的な視点からと、もっと身近な、日本的な視点にわけて考えてみましょう。

 

1. 世界的な視点

・ 水が、まず最初に海(液体の水)として現れる条件は気温が0〜100℃であること。太陽との距離との関係で、太陽系内で、地球より内側にある金星は200℃を超え、地球より外側にある火星は-30℃を下ります。また、地球と大体同じ位置にある月も、その小ささゆえ引力が弱く、水分子を引力圏内にとどめて置けませんでした。水の発生は、誇張でなく奇跡的なのです。

・ 地球上の水の総量は1,384×10km。なんだかわからないが多いらしい、という印象かもしれませんね。しかし、そのほとんどは海水で、実質的に私たちが飲料水等として利用できる淡水はその内2.5%でしかありません。しかも利用可能な推量には限界があって、淡水の内利用できるのは20%。つまり、全地球上の水のうち、私たちが実質的に利用できるのは0.5%でしかないのです。すでに世界各国が水不足に苦しんでおり(31ヶ国)、人口爆発の進展によりこの状況はさらに加速すると考えられています。こう考えると、水はありふれているようで実はありふれていない、という不思議な状況にあるということが言えるでしょう。

 

2. 日本的な視点

実は日本は水に関して様々な問題を抱えているのです。一つ一つ明らかにしていきましょう。

・ 日本の人口一人あたりの降水量は世界の5分の1でありません。

・ 日本の食料自給率は約40%。これがどう水の問題と関わるのでしょう。食料を生産するには、水が必要です。だから食料の60%を輸入に依存しているというのは、それらの育成に用いる水も海外に依存していることになるのです。例えば日本の穀物類の輸入は2400万tを超えていますが(これは世界トップクラス)、この輸入穀物を作るために使用された推量は240億tで、日本人の約1年間の水道水をまかなえる量です。

・ 日本は木材の80%、繊維製品の60%以上を海外に依存してますが、森林の涵養や繊維の生産・加工などに必要な水まで考えると、日本の経済活動の生命線を海外の水が支えているといっても過言ではありません。

 

以上から、水がありふれている、というのは幻想でしかないことがわかるでしょう。最近では将来の水危機を予測した人々が競って水売買の利権を得ようとし、水がBlue Gold(青い黄金)とまで呼ばれるようになってきています。これもまたいかに水がありふれていないかの証明でしょう。

 

<水はありふれている>

次は、つい今しがた言ったことと矛盾するようですが、水が「ありふれている」(この世界中、私達の体中に存在する)からこそ私たちの今がある、ということを、水が持つ得意な性質とそれが果たす役割という視点から述べてみようと思います。

・ まず、よく知られているように、人間の体の7,8割は水です。

・ 異常なまでの溶解能を示し、溶かせない物はありません。あらゆる物を溶かします。

この性質は、植物に対しては、土壌から養分を吸収して植物に運ぶ、動物では血液、体液として生体物質、栄養分を運搬する、という役割を果たします。

また、多くの物質を溶かし多種多様な生態化学反応が生まれるので、原始生命の誕生の場となったと言われています。

・ 熱容量(比熱)が大きいため、温度(体温)を保つ働きをします。水のない他の惑星では、昼夜の気温差が軽く100℃を越え、とても生物の住める環境ではありません。

・ 蒸発熱が大きいため、動物においては発汗による体温調節、植物においては葉の加熱防止という役割を果たします。バランスを取る役割があるのです。

・ 表面張力大が大きく(全元素中Hgに次ぐ)、毛細管現象の原動力となっています。これがなければ血液は私達の身体を駆け巡らないし、植物は水を根から葉の先まで到達させることが出来ません。

 

これらの特性は、生物が生存していく上で欠かせないものです。このような特性をもった水というものが、私たちの体、そして地球上のほとんどを占めるからこそ、今日私たちは存在できるのです。

 

これで、水の特殊性、かけがえのなさをわかっていただけましたか?あまりに身近過ぎて見落としてしまいがちですが、水はとても不思議でかけがえのない物質ですよ。

 


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