水=water?/お湯=hot water?
≪水の性質とそれが生んだ魔法の薬、温泉≫
041075 長谷部由紀美

 

Aさん「水は無味、無臭、無色透明で、何の特徴もないわ。水は、地球上で、最もありふれた物質じゃないかしら。」

Aさんに、いきなり質問です。「水」を英語で言うと何でしょう?

Aさん「water」

じゃあ、「お湯」を英語で言うと?

Aさん「確か、hot waterよね。

あっ、水もお湯もwaterの部分が共通だ!でも、なんで日本語の場合は温度の差で違う単語を使うんだろう?お湯も水なのに、水じゃないのね。変なの。」

 

日本語の「水」という言葉を聞くと、何を思い浮かべるでしょうか?多分、運動した後に飲むコップ一杯の水、洗濯をする時に使う水、川に流れている水、空から降ってくる水(雨)など冷たい液体としての水をまず想像すると思います。

でも実際、水は固体、気体、液体にユニークな状態変化をします。

 

では、私たちに関係深い水の特性を説明します。

 

まず、固体、つまり氷は物質密度が水より小さいです。氷が水に浮くのはそのためです。これは、氷になると分子が規則正しく並ぶためで、他の物質には見られない特徴です。

氷の密度=0,92g/cm3

水の密度=1g/cm3

また、分子間力が大きいため、融点が高く、融解熱が大きいです。つまり、氷は優れた冷却剤になります。

氷の融解熱=80cal/g

 

次に、気体について少し考えてみます。水は蒸発熱が大きいので、蒸発しにくいです。つまり、蒸発の際に多くの熱を奪うのです。動物が発汗によって体温を調節したり、髪の毛を洗った後よく乾かさないで寝ると風邪をひいてしまう、というのが当てはまります。逆に、台風のように、気体が液体になる時に大きな熱量を放出します。

水の蒸発熱=540cal/g

 

では、最後に液体、いわゆる「水」についてです。「水」の最大の特性は様々な物質を溶かす溶解能力の大きさにあります。これこそ、生命を育んだ秘訣です。植物は、土壌からの栄養分を水分とともに吸収、移動させます。動物は、血液の中を体液が流れ、栄養分を運びます。しかし、水の溶解能力が高いから、汚染物質が水に溶けて水質汚濁が進むという点もあります。最近では、ミネラルウォーターの中に、海洋深層水という、商品があります。海水の中に溶けているミネラル分はそのまま残し、塩分だけ取り除いたものです。

私たちの生活文化に深い温泉もこの「水」の性質が見られます。温泉法によると、温泉と認められるためには、「25℃以上」、または「遊離二酸化炭素、バリウム、鉄、マンガン、ヨウ素イオン、総硫黄など19種類の物質のうち、1種類以上が基準を上まっていること」とあります。また、温泉法には、

温泉法13条

[温泉の成分等の掲示] 温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする者は、施設内の見やすい場所に、総理府令の定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。

 

とあり、それぞれの温泉に「分析年月日、泉温、pH、成分と、成分から自動的に決定される、適応症・禁忌症」などが掲示してある、温泉分析書が書かれています。しかし、温泉分析書も鉱泉分析法指針で行われた分析全てを網羅しているとは限らないので注意してください。

分析年月日

日付がない分析表は論外ですし、温泉は経時変化するので、だいたい10年以上前のものは古すぎるので信用できません。特に火山性温泉の場合は成分変化が大きいので注意を要します。

泉温

泉温はあくまでも湧出地における調査結果に基づいているもので、風呂のそれとは違うことに注意します。この値が、45℃を下回るものでしたら、風呂のお湯は沸かし湯である可能性が高いです(もちろん、冷泉にそのまま浸かる場合は除きます)。また、泉温は分析した気温によって左右される可能性がありますので、分析書には必ず外気温が記入されています。夏暑いときに40℃という泉温だと冬はそんなにない可能性が高い、と判断しましょう。

成分とその具体例

単純温泉(単純温泉・アルカリ性単純温泉) いろいろな成分を含むが、いずれも規定量に満たないもの。しかし、源水が25度以上ある温泉。刺激は弱く穏やかで、効果もさまざま。名湯とされるものが多いです。

重曹泉(ナトリウム炭酸水素塩泉) アルカリ性意で皮膚の角質層を軟化し、皮脂を乳化させるため、皮膚からの放熱が高まります。肌がすべすべすることから「美人の湯」ともいわれます。飲泉は胃酸を中和し、胃の運動を促進します。胆汁の分泌を促すため肝臓、すい臓、胆のうに効きます。ヨーロッパでは「肝臓の湯」といいます。慢性気管支炎、喉の炎症にも良いです。

鉄・緑ばん泉(鉄炭酸水素塩泉・鉄硫酸塩泉) 鉄分を含みます。無色透明だが、空気に触れると酸化して褐色になり効果は低下します。浴用、飲用ともに貧血に効きます。よく温まり、更年期障害、慢性失神、水虫などに有効です。飲むと胃酸分泌を高めます。

 

しかし、このような含有成分は、時間とともに変質し、身体への効果は低下してしまいます。こうした泉水の変化を温泉の老化現象といいます。

この老化現象の例は、硫化水素臭のする硫黄泉と硫酸塩泉の温泉にみられます。硫化水素泉の中のS(硫黄)と比べると硫酸塩の中のS(硫黄)は酸化されています。つまり、硫化水素泉が若い温泉だとすれば、硫酸塩泉は老いた温泉なのです。「硫黄の老化」です。温泉も生きているのです。

最後に、水の状態変化を利用した変わり種の湯を紹介します。 温泉と言えば、内湯と露天風呂と思われるでしょうが、

蒸し湯(かま風呂温泉)/砂湯/砂利風呂/洞窟風呂/泥湯(鉱泥浴)/岩盤浴

などがあります。

 

蒸し湯には温泉の蒸気で直接蒸す湯と、温泉の熱で間接的に蒸すかま風呂形式があります。かま風呂形式は直接源泉に触れないのですが、長い歴史を誇っていて実際日本人に大変適しているようです。

砂利風呂は、実際に砂利を掛けるのではなく、砂利の上に寝るものです。砂利には52度の源泉が染み込んでいます。

洞窟風呂も意外と各所にある形態です。岩手の夏油温泉のように照明も無いところで、洞窟そのものを堪能できるところもあります。

泥湯(鉱泥浴)は、阿蘇、別府、後生掛あたりでしか見られない貴重なものです。泥湯は熱の伝導率が悪いので、局所的に高温になっている部分があるので注意してください。

岩盤浴は秋田の玉川が有名です。地熱と地中からの放射線に治療効果があるそうです。

泉水のほとんどは、地球規模で循環しており、有限な資源です。

現在は温泉ブームがあります。温泉は、病気を治し、体調を整え、元気を回復する「癒しの空間」として長い歴史をもち、西洋医学との接点も注目されています。精神的疲労やアレルギー疾患、成人病をかかえる現代の私たちにとってまさに温泉は適しています。だから、成分の特徴を生かしてさまざまな温泉を活用して欲しいです。そして、「なぜ温泉にはさまざまな成分が溶けているのか」、「温泉は有限な資源ではないのだから、過剰に温泉発掘をするべきなのか」を皆さんに考えて欲しいです。

世界中でお風呂に入れる人はたった2割です。残りの人々は、河川で洗濯や体を洗っているのです。このことを踏まえて、今一度、水資源の有難さ、私たちの文化に根深い温泉資源の大切さを学んでください。水資源を汚すのも守るのも、みなさん一人一人の意思と行動にかかっています。

 

参考文献


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