世界に広がる水不足問題と日本

e021173 菊池 航
 

 さまざまなメディアを通して叫ばれる世界各国の水不足問題であるが、日本という土壌環境に生活する我々にとって、このトピックは差し迫った危機感を帯びてはいない。それだけに水不足に関する情報と疎遠であり、実際には我々にとっても非常に重要な問題となる『未来における水不足の問題』への対策にも疎かになりがちである。そこで水不足という地球規模の問題に対する各国の調査と、現存する諸問題について述べたいと思う。

 まず現在の世界レベルでの水の需要と供給のバランスであるが、現段階においては明らかに水は足りていない。さらにコロラド大学準教授ケネス・ストルツェペクは、世界の水供給量の分析結果から、飲料可能な淡水の埋蔵量が年々減少しているとも報告している。分析によれば、現在既に世界人口の三分の一が、水事情が逼迫している地域に生活しているが、人口増加に伴い、灌漑、畜産、その他の産業活動や自然生態系維持のために、更なる水需要が増えるという。ストルツェペクの想定する現状維持シナリオでは、2025年までに世界人口の半数が、水が逼迫する地域に住むことになる、という予測となる。(Earth Vision Reports “Increasingly,”)また『世界水ビジョン_川と水委員会』の報告で明らかなとおり、一部の地域を除いたアジアとアフリカの全地域、一部の南米諸国が水不足の危険地域とされており、それらは地球全体の半分の陸地面積を占めている。

 これらのデータが公開され、いかに地球上で水不足が深刻化しているかということが判明したところで、やはりそれらの危機に直面していない国々、とりわけ日本において、人々の意識の中の水に対するありがたみや水の持つ重要性は低いと言わざるを得ない。島国であり火山活動によって隆起した多数の山の恩恵を受けた日本は、有数の河川と湖沼を持ちまたそれらから得られる水の生活用水としての安全性や用途の広さは、世界の他の地域と比べてみても群を抜いて高い。言い換えれば、日本のどの地域においても水道の蛇口をひねれば当たり前のようにきれいな水が得られる。そしてそれらのほとんどが飲料水としても利用できる。

 しかしこの『当たり前』が、近年ではもはや通じなくなってきた。河川や湖沼付近に建てられた数多くの廃棄物処理施設が、自然にとって脅威であるさまざまな有害物質を垂れ流し、実際におおくの被害を近隣に与えている。また節度を守らずに山林を切り崩した土地開発等の影響による水質の低下も深刻な問題となっている。にもかかわらずやはり我々の意識の根底には、まだ水不足や水質汚染に対する問題意識が芽生えていない。各地で行われる廃棄物処理施設の建設の際にも、企業や業者は『いかにして厚生省の定めた水質基準値以内に汚染度を抑えるか』に奔走するだけで、水源の環境保護という抜本的解決策には目を向けない。それらの企業や業者に限らず多くの日本人にとって、水源が枯渇した地域や、水不足の被害にあった村のニュースは、遠い国で起きているローカルなものとしてしか受け止められていない。このような現状において、具体的な環境保護活動や資源の再利用法などの呼びかけは、呼びかける側の持つ危機感と受け止める側の意識の低さが引き起こす認識のズレによって、ほとんどの場合が実を結ばない。その問題が水のように、普段我々が当たり前のように利用している資源ともなるとなおさらである。

 しかし既に述べたように、我々の目の前には水不足がはっきりとした問題として迫っている。間違いなく『水不足』の問題は、近い将来における最も重要な環境問題として取り扱われるものとなるであろう。なぜならば水というものほど我々人間にとって必要不可欠な資源は他に無いのであり、生命活動の維持という根本的必要性からも、水不足の問題は何よりも優先されるはずである。その問題の前において、経済的な発展に関わる問題などは付加的なものでしかなく、限られた国の都合で反故されるようなものでもない。

 経済大国であると同時に環境問題後進国とも呼ばれている日本にとって、ストルツェペクの提案、すなわち“21世紀は水が全ての人の問題であると理解し、持続可能な経済成長を遂げつつ人間と自然界の水需要を調和させること”には、真の意味で我々が取り組むべき問題が内包されているのではないか。

 

I.水不足の危険度

 

注)この地図は使用可能な水資源に対する現在の使用量,水供給の信頼性及び国家収入の関係に基づく複合指数を用いて各国の水不足に対する危険度を表したものである。

出典: Stockholm Environment Institute, Comprehensive Assessment of the Fresh-water Resources of the World, 1997.

 

 

 

 

II.世界水紛争MAP(村上雅博氏資料より作成)

考察

人口の急増、産業の著しい発展によって水需要が増大しており、現在、アジア、アフリカなど31カ国が水の絶対的な不足に悩んでいる。また、今後の人口増加に伴い、2025年には48カ国で水が不足すると見込まれ、食糧難の増加など非常に深刻な問題となっているのが現状。

(参考資料 http://www.idi.or.jp/vision/wwv-02.htm#a より抜粋)

 

参考文献

川と水委員会, Water in Rivers, http://www.idi.or.jp/vision/wwv-02.htm#a

Earth Vision Reports, Increasingly, the World is Becoming Water Stressed,

http://www.gnet.org/Coldfusion/News_Page2.cfm?NewsID=9020

長良川水系_水を守る会、Keepers of Free Flowing,

http://www1.linkclub.or.jp/~nagara/index.html

 


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