吉村美幸子

(指導教授:高橋景一)

再活性化したウニ精子鞭毛の運動に対するカルシウムイオンの作用
The effect of Ca2+ on the movement of reactivated sea urchin sperm flagella

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鞭毛運動は9本の周辺微小管同士の滑り運動が基礎になっている.ウニ精子鞭毛は, 精子頭部軸に関して非対称的な屈曲波を,一平面上に形成しながら運動する.このため には,滑り運動は空間的時間的に制御されていなければならない.鞭毛運動は,Ca2+によっても調節を受け,鞭毛内Ca2+濃度を上げると波形の非対称性が増す.Ca2+が作用する相手として,周辺微小管,ダイニン,スポーク,中心小管などが示唆されている.

本論文では,Ca2+の作用を波形の非対称性と微小管の滑り速度に注目して調べた. Part 1では,様々な濃度のMgATP およびCa2+ を含む再活性化溶液中で波形と振動数を測定し,微小管の滑り速度を計算した.この結果,非対称性はCa2+濃度が高いほど,また,MgATP濃度が高いほど大きくなった.滑り速度は溶液中に300-330μMのMgATPが 含まれている場合に10-6-10-4 MのCa2+によって低下したが,これより低濃度のMgATP存在下ではCa2+は滑り速度に影響を及ぼさなかった.ある条件ではCa2+によって非対称性が増すものの,滑り速度は変化せず,Ca2+が滑り速度の制御と非対称性の制御とにそれぞれ独立に関与していることが示唆された.

Part2では,エラスターゼ処理軸糸を用いて様々な濃度のMgATPとCa2+の滑り速度への影響を調べたが,いずれのMgATP濃度においても滑り速度にCa2+濃度による有意な差 は見られなかった.この結果は,Ca2+による滑り速度の制御と滑りのパターンの制御は独立であることを示唆する.

Part3では,精子頭部を微小ピペットで吸引し,強制振動させることによって鞭毛運 動の屈曲面を変化させた.このとき周辺微小管と中心小管の相対的な位置関係が刻々と 変化していると考えられる.実験の結果,Ca2+によって生じた非対称的な波形が屈曲面の回転に伴って回転し,Ca2+が特定の周辺微小管の滑り運動を直接調節するのではないことが示唆された.恐らく,Ca2+は中心小管とスポークの相互作用に依存した滑り量の制御に関与し,波形の非対称性を増大していると想像される.

以上のように(1)Ca2+は微小管の滑り速度と波形の非対称性に影響を及ぼすが,両者の制御には独立した機構が関与している,(2)Ca2+はエラスターゼで処理した軸糸において能動的な滑りのパターンを調節するが,その滑り速度には影響を及ぼさない, そして,(3)Ca2+は中心小管複合体とスポークとの相互作用を介して能動的な滑り運動のパターンを調節していることが示唆された.


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