寺西慶哲
(指導教授:渡部 力)
pHe+の希ガス原子との衝突による励起,脱励起過程
Excitation and de-excitation processes of pHe+ induced by collision with rare-gas atoms
理学研究科報告1995目次へ
反陽子は,普通物質中に入射されると,物質中の陽子と反応して瞬時に消滅する.と
ころが,ヘリウムに入射された場合,約3%の反陽子は数マイクロ秒にわたって生き延び
ることが最近の実験によって確かめられた.これは,準安定な反陽子ヘリウムが生成さ
れているのが原因であると考えられている.反陽子がヘリウム中に入射されてから崩壊
するまでの過程は,次のように考えられている.ヘリウム中に入射された反陽子が,ヘ
リウムの電子をイオン化または励起しながら減速していく.そして励起もイオン化もで
きなくなると捕獲されて反陽子ヘリウムを形成する.形成された反陽子ヘリウムは,オ
ージェ,あるいは輻射によって低い軌道へ遷移していき,ついには核吸収をおこす.と
ころが最近,山崎らの実験によって,次のようなことが明らかになった.
- 標的であるヘリウムの密度を高くすると,反陽子の寿命は短くなる(密度効果).
- ヘリウムに不純物を混入すると反陽子の寿命は短くなる(不純物効果).
- 密度効果は,不純物効果と比較すると非常に小さい.
- 希ガスを不純物として混入すると,大きい原子ほど不純物効果は大きくなる.
- 2原子分子を不純物として混入すると,希ガスの場合よりも不純物効果は大きくなる.
- 希ガスによる不純物効果は,高温で活発である(温度効果).
これらの現象はさきに述べたモデルでは説明できず,反陽子ヘリウムと周囲の分子と
の衝突過程によって説明できると考えられる.そこで修士論文において,反陽子ヘリウ
ムの希ガスとの衝突による励起,脱励起の断面積を計算し,密度効果ならびに,希ガス
の不純物効果の説明を試みた.反陽子ヘリウムはその生成過程の考察から,数 eV の運
動エネルギーを持っていると考えられるが,温度効果を考えると不純物効果は熱運動で
の衝突によって説明できると考えられる.また実験結果から推定される希ガスと反陽子
ヘリウムとの衝突断面積は,おおまかにいって希ガスの分極率の2乗に比例しているこ
となどから,低エネルギー衝突ではあるがBorn 近似で十分であると考えた.
Born 近似では,反陽子ヘリウムと希ガス分子との距離が小さい領域でのポテンシャル
の詳細によらずに衝突断面積が決まるので,相互作用は多重極展開によって計算したも
のを用いた.現在,遷移行列要素の計算を完了し,いくつかの励起,脱励起の断面積の
計算を行なった.その結果,大きい希ガス原子ほど脱励起の断面積が大きいこと,He で
は殆んど衝突による脱励起が起こらないこと,などの実験結果を説明することができた.
このページの最初へ
理学研究科報告1995目次へ