9.ディーセント・ワークの実現を目指すILO― 労働組合、企業その他との新たな協働
長谷川真一 ILO駐日代表
<報告要旨>
ILOはディーセント・ワーク(働き甲斐のある人間らしい仕事)を実現するには、従来の手法だけでは不十分であるとの認識を強めている。国際労働基準は本来ILO条約を批准した国家が遵守の責任を持つが、グローバル・コンパクトの下では多国籍企業を含む企業がCSRの一部として主体的に労働基準に関与する新しい形式である。一方労働組合は制度的には組合員の利益を守るための組織であるが、すべての労働者のために活動することはナショナルセンターなどの連合組織の社会的責任でもある。
グローバル化の中で、ILOにとって労使以外のアクターとの協働が重要となった。ILOが設置した「グローバル化の社会的側面に関する世界委員会」の報告(2004年)を受け、ILOは多様なアクターとの協働と連携の巾を広げてきた。協同組合に関してはICAと、児童労働問題についてはNGOと、グリーンジョッブに関連しUNEPと、またより一般的にはISO26000作成に関係するステークホルダーと協議と協働を推進している。
<全体討論>
高橋 大変広範な範囲にわたるお話を伺った。時間の関係上、最初に質問をまとめてうかがって、最後に長谷川さんにご回答いただきたい。
久山 日本に研修という名目で来日している中国の若い人たちがいるが、彼らの待遇について強制労働だという批判もある。ILOはなんらかの対応をとっているのか。
野村 グローバル・コンパクトと日本の労働組合との関わりについてだが、以前、労働組合の全国大会でグローバル・コンパクトについて話した際には関心はあるという反応だったが、その後、具体的な動きは現れていない。そのあたりの事情について、ご存知であれば伺いたい。
吉川 ILOとIMOの関係において、ILOは移動の問題にどのように対応しているのか。
功刀 三者構成について、労働組合と市民社会の関係は良好とはいいがたい状況が続いていると思うが、消費者である一般市民や市民社会との協力関係について、ILOでも手直しをする必要があるのではないか。何らかの動きはあるか。
長谷川 最初のご質問である研修生の問題だが、ILOとして発言しているということはないが、ILOの専門家は、研修制度が技能を修得してもらい故国で活躍してもらうことを目的としているのであれば、帰国後の動向や実態について調査や研究を行い評価するべきではないか、といった指摘をしている。実習生制度といっているが単純労働をやらせているだけではないのか、ということを暗に言っているというのが現状だろう。事実、技能実習制度は、韓国と日本だけでしか行なわれていない。韓国の場合も、帰国しない人が多いといった問題が発生したため、制度そのものが韓国には適さないということで法改正を行なった。今では二国間協定による労働者の導入というシステムに変りつつある。日本の場合は、経済の実体と制度の趣旨が乖離してきているので、こういった議論がでてくると個人的には考えている。
グローバル・コンパクトと労組だが、労組は、関心がないわけではないが、基本的に国内問題に関心がある。国際活動をやっている人は限られる。正直なところ、発展途上国の労働者を対象にするところまではいかないのではないか。ただ労組は、グローバル・コンパクトに反対しているわけではなく、推進しなくてはいけないと考えていると思う。今後は、大企業の労組の取組を中心に関心が高まるのではないか。
IMOとILOは、様々な場で協働している。ILOからみてIMOは現場に強く、移住の専門機関なので移住促進的なニュアンスがある。対するILOは権利志向で、国境を越えた移動は国家の政策であって、ILOはその国の移民労働者の権利を保護するという志向が強い。よってILOは、受入国と送出国の対話の促進や多国間枠組みの促進をやらなくてはいけないと考えている。実際のところ移民政策に関しては、先進国は、国際機関にまかせる事項ではないと考えている。いずれの国も拘束力のある文書の作成には消極的だ。世界の移民は、数として増えているわけではないが、二極化している。ILOは、高技能労働者ではない、3Kといわれる労働をしている層に焦点を当てて活動しなくてはいけないと意識している。
労働組合とNGOについてだが、日本の場合は、連合とNGOのネットワークなどもあり、連合がNGOを支えるといったこともある。国際NGOの日本支部は別として、日本独自のNGOで、労働人権分野において強いところはあまりない。労組のOBでNGOにはいってやっている人もいる。他国ではどうかというと、ILOに直接参加している労組代表は、国際を担当している人たちであって、この人たちはNGOの代表性を問題にする発言をしたりする。しかしそれがそれぞれの国の労組とNGOの関係をきちんと反映しているのかどうかについて疑問に思うことがある。それぞれの国の現場の内情はよくわからない。
高橋 末吉さん、長谷川さん、ご報告ありがとうございました。金融を通じて環境保全にどう取り組むか。ディーセント・ワークをいかにして実現するか。これらの問題に対して、既存のシステムで対処するには無理がある。どうしても、多様なアクターが協力しつつ、問題を解決していかなくてはならない。この点において、どう協力していくかということが、昔とは異なった形で課題になっていると思う。その手段として、ガイドラインや原則や宣言といったソフトローの分野が非常に重要になっている様子が伺えた。一方において、ソフトローに飽き足らないアクターたち(たとえばILO条約に慣れ親しんだ人たち)はそれに不満をもつだろう。他方で、自由に行動したいアクターたちはソフトローであっても規範を嫌うだろう。そのあたりのせめぎあいがどうなっていくかということが、研究会の課題として浮き上がってきたという印象をうけた。
(司会:高橋一生 記録:久保田有香)