9.国連の平和プロセスにおける多様なアクターの協働に関する2つの報告 (30 Aug. 07)
《 報告要旨−1
》 平和・軍縮分野における政府と非政府アクターの協働
ピースボート共同代表
川崎 哲[i]
はじめに
平和・軍縮分野で非政府アクターに何ができるか/何をすべきか
平和分野の幅広さ(紛争、軍縮、地域、より広い「平和」等)
軍事問題に非政府アクターが関わる本来的な難しさ
(1)
軍縮分野における非政府アクター
NGOの関与[ii]
l
1995年からの核不拡散条約(NPT)再検討プロセス
l
1996年、核兵器使用の違法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見
l
国連総会・核廃絶日本決議「核軍縮・不拡散における市民社会の建設的な役割」
テロ問題と不拡散と非国家アクター
l
大量破壊兵器に関する国連安保理決議1540(2004年4月)
「(すべての国連加盟国は)非政府アクターが核・化学・生物兵器ないしその運搬手段を、とりわけテロ目的で、製造、取得、保有、開発、輸送、移転ないし使用することを禁止するための適切で有効な法律を採択し執行する…」
l
輸出管理制度の強化
リスト規制からキャッチオール規制(エンドユース規制)へ
「輸出に対して障壁を置くという考え方に基づく管理制度から、潜在的危険性を有する大量破壊兵器関連物資の(国内的および国際的な)所有および流通をこれまでより包括的かつ協力的な形であらゆる側面において規制するという考え方に基づく管理制度へと移行することが必要」(ブリクス委員会『大量破壊兵器 廃絶のための60の提言』)
(2)ブリクス委員会『大量破壊兵器 廃絶のための60の提言』(2006年6月)[iii]
「大量破壊兵器についての国の決定は、「安全保障の聖職者」によって独占されるのではなく、透明で民主的でなければならない。」
提言49 企業とビジネス界の責任
l 大量破壊兵器関連(原子力、生物、化学)企業の拡散防止責任。
l 国内的・国際的義務を完全遵守し透明性を高めることは企業の利益になる。
l
貿易協会等の役割。
提言50 科学者の責任
l
学術団体・企業団体が大量破壊兵器関連の科学・研究の業務規範や行動規範を採用・履行することを奨励。
提言51 議会の役割
l 保有国政府は、議会に、兵器保有状況と削減・廃棄活動について完全な情報提供をすべき。
l 議会は、そのような情報を積極的に入手する努力をすると共に、大量破壊兵器問題に関する政策を策定する責任を認識すべき。
l
大量破壊兵器問題に関する議会間の一層の協力拡大。
提言52 NGOの役割
l 各国は、NGOの大量破壊兵器問題に関する活動(国際会議への出席など)を支援すべき。
l
民間財団は、大量破壊兵器の脅威を除去するために活動しているNGOへの支援を十分に増大させるべきである。
提言53 軍縮教育
l 2002年の軍縮・不拡散教育に関する国連の研究を活用すべき。
l 軍縮・不拡散教育および公衆討論を活性化すべき。
l 関連国際機関への学生インターンシップに政府は資金提供すべき。
(3)日本における現状
企業界
経済産業省 安全保障貿易管理(相談窓口)[iv]
財団法人 安全保障貿易情報センター[v]
経団連「企業の過大な負担回避を」[vi]
科学者
日本パグウォッシュ会議
日本学術会議
ピースプレッジ・ジャパン[vii] 科学者平和誓約運動、「非核三原則」投票運動
議員
国際軍縮促進議連(1982年国連軍縮特別総会の頃、200人)
核軍縮議員ネットワーク(PNND)[viii] 2006年8月現在、47人
民主党 核軍縮促進議連[ix] 2006年8月発足 発足時39人
PGA(Parliamentarians
for Global Action) 2006年12月、東京総会
国会論議の状況
地方自治体、地方議員
非核宣言自治体 全国で1,267(2006年4月。減少傾向)[x]
日本非核宣言自治体協議会(事務局、
平和市長会議[xi] 広島・長崎両市長 122国・地域、1698都市が加盟
「核軍縮のための誠実な交渉義務推進キャンペーン」
「都市を攻撃目標にするな(CANT)プロジェクト」
地方議員のネットワーク
(虹と緑の500人リスト、アジア太平洋グリーンズ・ネットワーク等)
NGO
原水爆禁止団体
被爆者団体
NGO
活動 平和教育、被爆体験の継承
核廃絶署名
核実験への抗議
政策提言
課題 高齢化、裾野の広がりの欠如
軍縮教育
2002年の国連研究
日本政府――2007年NPT再検討準備委員会(ウィーン)
マンガ「はだしのゲン」の英訳本配布、映画・DVD上映
「軍縮教育の新たなイニシアティブ」
@マンガを活用、A世界の学生を招待して軍縮ディベート杯
国連軍縮会議(札幌など)
非政府の取り組み
長崎、高校生平和大使
ピースボート、国際交流の船旅(核保有国からのユース・アンバサダーなど)
インド・パキスタンの子どもたち招聘
民間財団
非常に限定的
(4)政府と非政府アクターの対話・協働
1995年核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議 「アボリション2000」誕生
1998年「東京フォーラム」と首都圏、広島、長崎の市民の動き
核兵器廃絶地球市民集会ナガサキ(2000年〜)
原水爆禁止世界大会での政府・議員とのパネル
毎年の秋の国連総会決議をめぐる市民と政府の対話
国連改革に関するパブリックフォーラム(2005年〜)
東アジア平和フォーラム(2006年、2008年)
(5)視点を広げる
l
軍縮が可能になる環境を醸成する
南アフリカ
アパルトヘイトの終了(1991)→核廃棄宣言(1993)→アフリカ非核地帯(1996)
朝鮮半島
ヒュンダイ・アサンによる金剛山観光開発[xii]
1998年開始。2006年までに130万人
「朝鮮半島における和解と平和の新しい幕開け」
東西ドイツ統一において企業・市民社会が果たした役割
米ソ冷戦終結に対して「西欧の反核平和運動」「東欧の人権運動」が果たした役割
l
軍需産業を規制する
ノルウェー
年金基金「倫理ガイドライン」[xiii]
「たとえば、武器製造といった人権の侵害を招くおそれのある企業とは関わりを絶つ。核兵器もしくはクラスター爆弾の部品製造に関わりのある世界の企業17社は基金投資先から除外されている」
2006年1月、ボーイング、ノースロップ・グラマンなどの保有株式・債権33億クローネ(580億円)を売却
カリフォルニア大学(UC)
核兵器開発協力に反対する地元・学生の運動[xiv]
l
実際の軍縮・脅威削減を支援する
ロシアの軍縮支援など(2002、G8グローバル・パートナーシップ)
資金、技術、物質管理、民生転換、科学者の再雇用
テッド・ターナー(CNN創業者)の核脅威イニシアティブ[xv]
おわりに 日本の市民社会の課題
軍縮――「政府に訴える」←→「市民社会がつくる」
教育(軍縮教育、平和構築人材育成、持続可能開発教育)
「平和国家」としての世界のなかでの存在感をどうつくるか
9条世界会議(2008年5月4〜6日、幕張メッセ)[xvi]
(付属)
武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ(GPPAC)
世界行動提言(2005.6)
非軍事化、軍備管理、軍縮に関する提言(2.6項)
l
政府による武器貿易条約(ATT)、小型武器行動計画、核・生物・化学兵器の廃絶努力
l
コミュニティの武器削減に向けた市民社会組織・政府・国際機関の協働
l
市民社会による防衛予算・軍事支出の監視
l
軍需産業が政治決定に関わることの防止
l
各国の防衛政策が国際法・国際条約を遵守するよう市民社会が監視
l
良心的兵役拒否の権利
《報告要旨[xvii]−2 》 国連平和プロセスにおけるビジネスの役割と可能性
広島大学大学院国際協力研究科 准教授
上杉勇司
「お金儲けは悪いことですか?」— 村上世彰(M&Aコンサルティング取締役)
【筆者の立ち位置】平和維持や平和構築の現場を歩き見てきた者として、紛争地でのビジネスの正負の役割を具体的な視点から分析し、ビジネスが紛争解決や平和構築において生産的な役割を担うための現実的なアプローチを提案する。
【本報告の主張】ビジネスの本性は営利追求である。したがって、ビジネスが紛争解決・平和構築に生産的な貢献をするためには、第一にビジネスの本性である営利追求と合致する協力や貢献のあり方を目指さなくてはならない。しかし、それと同時にビジネスの corporate citizenship への志向を歓迎し促進することも重要である。
1.
本報告のねらい
本報告のねらいは、国連による平和の実現に向けた取り組み(国連平和プロセスと呼ぶ)とビジネスの関係を論じることにある。ビジネスがもたらす負の側面だけでなく、紛争解決・平和構築に及ぼす生産的な正の側面も考察する。その際に、Business of Peace において提示された分類枠組みを用いつつ、「平和で儲ける」をキーワードに@ビジネスの社会的責任としての Do-No-Harm、Aビジネス本業を通じた貢献、B平和ビジネス(平和で儲ける)の基盤整備のための先行投資、の3つの柱で分析していく。
2.
本報告の前提
(ア) ビジネスの影響力の拡大
国連憲章第1条にあるように、国連は国際の平和と安全を維持することを目的として設立された。しかし、もはや国連だけでは国際の平和と安全の維持という課題に対応することができなくなったという認識が広まっている。国際の平和と安全の維持という領域でも、国連が市民社会や企業のような非国家主体とパートナーシップを結ぶことの重要性が唱えられるようになった。なぜ、国連とビジネスの協力・協働が求められるようになったのだろうか。それは、多国籍企業に代表されるビジネスの影響力が、国際の平和と安全の維持の領域にまで拡大してきたからである。エネルギー資源や鉱石資源に関するビジネス、地雷や小銃などの小型武器取引に関するビジネス、あるいは民間戦争請負会社と呼ばれる傭兵ビジネスが及ぼす負のインパクトを看過することはできなくなったのである。
(イ) ビジネスによる平和貢献の可能性
他方、紛争を助長するようなビジネスの負のインパクトに対する規制だけでなく、ビジネスが紛争解決や平和構築に生産的な貢献ができるのではないかという問題提起が近年盛んになされるようになった。つまり、紛争解決の阻害要因としてのビジネスという認識から、紛争解決の促進要因としてのビジネスの可能性を模索する動きが活発になってきた。例えば、Jane Nelson, Building Partnerships: Cooperation between the United Nations system
and the private sector (UN/DPI 2002)では、国連とビジネスによるパートナーシップの必要性が主張されている。ただし、現状では国連側の論理でパートナーシップが追求され、営利追求を目的とするビジネス側の動機が十分に考慮されていない。実際に、物資調達や警備といった一部の業種では、本業を通じた国連とビジネスの協力関係は、人道援助、平和維持、平和構築の現場においては常に見られる光景である。つまり、企業体にとって最も健全な動機である「営利目的」をパートナーシップの論理に組み入れることで、ビジネス側の積極的な協力が得られている。
3.
本報告の構成
(ア) 問題の所在(前提部分)
(イ) 分析枠組みの検討(ビジネスの役割と可能性を探る)
(ウ) ビジネスの社会的責任としての Do-No-Harm
@
紛争の継続を助長するビジネスの責任
A
Do-No-Harm による紛争ビジネスの規制・是正
B
ビジネス戦略としての Do-No-Harm 企業イメージ、現地との関係構築、リスク回避
(エ) ビジネス本業を通じた貢献(平和ビジネス)
@
フィールド支援ビジネス(人道援助・平和活動の調達)
A
セキュリティービジネス(民間軍事会社、警備会社)
B
ODAビジネス(復興開発関連ビジネス)
(オ) 平和ビジネスの基盤整備のための先行投資(平和で儲ける)
@
平和と安定は一般ビジネスの活動の前提
A
特殊業種以外の一般ビジネスの参画の条件整備
B
軍縮ビジネス(軍縮を通じた軍事予算の民生部門への転換と軍縮技術と産業の輸出)
(カ) 良き corporate citizenship を平和主義国家日本から発信する方途の模索(国際の平和と安全の維持に責任ある主体としてのビジネス)
《 全体討論 》
高橋 内容の濃い、知的なクリエイティブなご報告ありがとうございました。2つの報告についてご質問やコメント、ございますか。
功刀 幅広い報告、ありがとうございました。今日の報告内容について、ここまでご存知なのは川崎さんぐらいだろう。誰が何をやっているか、よくご存知で最近の問題の核心を把握されている。いくつかコメントしたい。日本についてだが、外交政策の一端として平和主義を打ち出すのであれば、もっと出来ることがあると思う。例えば国連政策との関連で、日本がより明確に平和主義を打ち出すことは、安保理常任理事国への道にもつながるだろう。核軍縮についてだが、これは重要なテーマだ。日本の弱みは、アメリカの核の傘に入っていながら核軍縮を唱えることだろう。最後だが、昨日今日と、ユネスコとUNUが「グローバル化する世界での高等教育の役割」という会議を開催しているが、今回の議題に平和教育は入っていない。ユネスコはもともと平和教育に力をいれていたと思うが、この点について会議の準備に携わった高橋先生に補っていただければと思う。
高橋 その点だが、今回のプログラムに平和教育は一切、入っていない。平和教育のプライオリティは、極めて低いと考え、判断した。平和教育は、内容が非常に乏しい分野なので、今回のテーマにいれると、会議のクレディビリティが低下すると考えた。ユネスコ自体の問題になるが、本来であればユネスコは、平和の問題を含め、価値の調和を追求するはずだったが、冷戦のあおりをうけて政治化してしまった。今は、リカバリイ・プロセスにあると聞いたが、そのようなユネスコの内部事情もあって、今回は取り上げなかった。
中丸 今日のお話だが、平和に反対する勢力の問題があるのではないか。日本でも、例はあるが、平和に反対する勢力を視野にいれたうえで平和を促進しないと、インパクトは弱いのでないか。産業の軍事化もあると思う。メディアが避ける傾向も問題だ
久保田 企業に対する働きかけとして、ネガティブ・キャンペーンの役割が重視されていたが、日本を対象として考えた場合、日本は消費大国でブランドを重視する一方で、そのようなキャンペーン自体の盛り上がりは極めて弱い。ネガティブ・キャンペーンに一定の役割を期待するにあたって、キャンペーンの実施方法など具体的なお考えはあるのか。
上杉 「ほっとけない世界の貧しさ」キャンペーンで、つちかったノウハウを使うというのはどうだろう。黒田かをりさんに伺いたい。
黒田 一般的にネガティブなものは、人を動かす力が低い。ほっとけないキャンペーンも政治的なメッセージを前面にだしてしまうと広がらない。政治的メッセージを薄めることによって、多くの人が参加するという側面があるのは否定できないが、むずかしい。
中丸 確認として、何のために営利を追求するのかという点について伺いたい。また平和貢献におけるビジネスを通じた貢献について、民間の軍事会社を入れている意味は、どこにあるのだろうか。
上杉 営利追求はなにかという点だが、生きていく、またはよりよい生活をするために必要なこと、と考えているが、まだきちんと捉え切れてはいない。民間の軍事会社についてだが、ダルフールのAUミッションは展開するにあたって、ロジについては民間の軍事会社にまかせている。他方で、NGOの活動を支援する民間の警備会社や軍事会社がある。紛争でもうけている人もいれば、間接的であっても平和活動を支援している安全保障ビジネスもあるという認識だ。ビジネスがどう国際の平和の維持に寄与するのか、この点についてこれから研究を進めていくわけだが、ビジネスの人たちが石油等々で、世界の紛争を助長するようなことをしてこなかったのか、という点がわからない。ここを分析していきたいと思う。
黒田 平和でもうけるという点についてだが、平和と企業価値について調査はされているのだろうか。ベトナム戦争のころのピースポートフォリオなどの例もあるが、いかがだろうか。
上杉 まだその点については、詳しくはやっていない。一般的な話になるが、ISOのなかに平和を入れられれば、ピースポートフォリオに近いものになるのかなとも思う。「環境にやさしい」と同じように、「平和にやさしい」を重要な価値としてつくっていければと考えている。
高橋 「平和にやさしい」とは何を意味するのか。
中丸 「環境にやさしい」も曖昧だし、「平和にやさしい」も曖昧だ。もう少し、皆がわかるような概念を提示するべきではないか。
上杉 平和についていえば、自分たちの食の安全の確保だとか、搾取していない、とか広い意味での平和に関連した活動は広まっていると思う。明確に定義すべきかどうかは、わからない。
高橋 特定の武器の輸出は、平和にはやさしくないのではないか。
上杉 武器輸出はやさしくないだろう。
高橋 となると、国際社会の平和がどう維持されているかについて明確な認識がないといけない。世の中の人が非常に納得するようなかたちにならないと、人は動かない。
小坂 「平和にやさしい」という話があったが、平和と安全をミックスしているような気がする。安全があってこそ経済は動く。他方で平和は、個別でも普遍でもある。平和とはなにかを考えたとき、それは企業が発展していることなのか、牧歌的な生活なのか。個別でも普遍でもありうるので、ここがはっきりしないと、昔のナショナリズムのように、国家や予定調和といった方向に進むような気がする。平和と安全の概念は分けるべきとお考えか。
功刀 平和と安全だが、平和はグローバル・公共財、安全は平和と共生のための前提条件であるところの中間財だと思う。つまり次元からいうと、安全は手段としての位置をもつ。具体性をもってどうするかを考えたとき、安全を扱うことは緊急かつ重要であるが、ディメンションが違う。
川崎 「平和にやさしい」だが、私は、上杉先生がお話のなかで強調されたようにCSRをDNHの観点で考えるべき、というのは重要だと思う。ネガティブ・キャンペーンの広がりについてだが、一個一個の企業の活動が紛争に結びついているかどうか、という監視が少ないという点があげられる。例えば防衛問題だが、防衛白書を読んだりすることによっての軍事政策のモニタリングは多くの人が行なっている。だが企業と紛争について、どこまでモニタリングしているかといえば、実際の技術の輸出についての監視について、学術上もキャンペーン上の関心も低い。
高橋 この時点で本日の2つの発表における争点が重なってきたので、二つの発表についてのご質問・意見をうけつけたい。
高島 お二人とも企業の行動規範を、編み出そうと苦労してらっしゃるようだが、紛争予防などを念頭においた行動規範はない。世界が認める企業の行動規範は、今のところグローバル・コンパクト(GC)しかないのが現状だ。GCにおける人権、労働、といった規範は、世界人権宣言やILOの労働基準など国際法の基準がベースになっている。だからこそ、企業もGCに参加する。ところが、その基準となるものを平和や紛争予防について設けようとすると、どこに行動規範の座標軸をおくべきなのかわからなくなる。このような状態のなかで、平和や紛争予防について世界的な規範をもって企業をしばることは、ほとんど不可能なのではないか。
功刀 国際法の重要な一部である国連憲章の第1目的は平和と安全の維持であって、国家の責任において、あるいは国連決議によって企業活動は様々な規範の対象となる。したがってベースがないという議論にはならないのではないか。
水田 自分も平和構築とビジネスについて研究しているが、発表をうかがって思ったのは、平和の範囲が問題になるのではないか。広義の平和か狭義の平和か、分けて考えるべきだろう。範囲を広げることによって、武器の問題についてもバランス・オブ・パワーの枠組みで考えることも可能になる。また武器と平和が相反するものではないという考え方もとれる。私の研究会では、狭義の平和構築、一国のなかの紛争に国際社会がどう平和を構築するかに焦点を置いている。GCに平和を入れる、となるとコンセンサスを得るのは難しいだろう。GCにおいても平和構築に関する議論はあった。GCのHPに過去の議論がアップされている。一時、その議論は安保理討論にもいたったが、その時点で取り組みは途絶えた。GCにおける紛争予防を推進していたのはドイツだったが、それに反対したのは、アメリカであってビジネスと平和はGCの扱うテーマではないと反対した。環境でも同じだが、自国の企業にマイナスの影響があるものについては反対ということなのだろう。ただ米国も環境に対する態度は変えつつあるので、変化が生じないとはいえない。GCにおける平和は、頓挫はしたが、ドイツとイギリスが、平和構築とプライベートセクターという会議を開催しており、世界的な取り組みに広げようという流れもあると思う。
CSRについて企業の本業と分けた文脈でとりあげられたが、本業におけるCSRもある。本業を生かしながら、企業活動においてCSRを向上させる、この点に重点が移っているのが現状だ。例えば、ソフトバンクが被災地の援助関係者の携帯電話を通話料込みで無料で貸与する。こういった本業をいかしたCSRの例がある。
規範の話で平和でもうけるとおっしゃったが、儲からない場合が多いのが現実だ。フェアトレードは、損はしないが、もうからない。当然のことながら企業は機会費用を考える。他方で、フェアトレードに取り組む意味はなにかというと、企業価値を高めることに結びつくので、もうからないがやるというところがある。この点に企業は興味をもっている。そういった活動に取り組むことが社会的に認知されることが重要で、その意味でGCのなかに平和を入れるといったことが重要になるのであろう。
毛利 ビジネスといったとき、その分析単位は何か。CSRというのは企業単位だが、セクターワイドになると、本業によって異なる面がある。説明で示された表における先行投資だが、この部分は産業界の対応もありうると思うが、国によっても異なるだろう。そのあたりの絡みも分析する必要があるのではないか。川崎さんご指摘とも関わるが、武器の種類によって、NGOや企業の対応は、異なっていいのか。地雷撤去の分野ではNGOの取り組みはうまくいったが、小型武器ではだめだった。これはアメリカの銃協会があるからだが、武器ごとにNGOのパートナーシップや対応を考えていくべきなのだろうか。
川崎 武器の種類ごとに現実に対応は異なるし、また対応を変えるべきだと思う。規範の問題とも関係するが、大量破壊兵器は基本的に禁止するというのが国際規範となっている。とくに生物・化学兵器は国際条約によって全面禁止されている。核兵器は全面禁止よりは弱い「不拡散条約」が規範となっている。一方、対人地雷はその非人道性に着目して全面禁止された。クラスター爆弾について同じ動きが始まっている。小型武器一般については国連の「行動計画」があり、通常兵器全般につてはこれから貿易規制の条約を作ろうという段階だ。このように武器ごとに異なる国際規範に合わせたキャンペーンを展開する一方で、規範自体を作らせていくキャンペーンもNGOは展開している。たとえば、核不拡散条約にとってかわる「核兵器禁止条約」をつくることを、広島・
上杉 分析単位だが、わざとビジネスと広くとってぼかしたのは、色々あると思ったからだが、しっかり分けなくてはいけないと、ご指摘されて思った。平和でもうけよう、という言い方が悪かったのかもしれないが、企業活動においてDNHを守れているかどうかを重要視している。平和でもうかっている、というのは紛争でもうけてはいない、という意味だ。そこをスタート地点にしたい。行動規範については、平和は国連のそもそもの目的だが、それ以上に何かあればいいとは考えている。一国の平和を考えたとき、その国に関わる関係各国・企業がDNHの原則を採用すれば、国際的な合意が出来やすいのではないか。
庄司 昨日の研究会で、GCに平和という項目をいれようという話になった。現在、検討中だ。上杉さんのビジョンだが、国連平和プロセスとビジネスにおける国連のリンクがわかりづらいような気がした。接点はGCになるのだろうか。DNHについてだが、それは中立を意味するのだろうか。国際法において企業は扱ってこなかったが、中立法規のありようは色々だ。
中丸 平和の問題だが、国連憲章で戦争はやらないと書いてある。この理想は追求しつづけないといけない。使えない武器は無駄なのであってなくさないといけない。戦争を命令にした者は終身刑、といった条約をつくればよい。
高橋 本日の二つの報告は、非常に面白かった。議論は、まだまだ続きそうだが、このあたりで終わりたいと思う、グロチウス以来、経済活動と平和は長い間、議論されてきた。今のフェーズで、経済活動が国内の武力紛争に対してどういう意味を持ちうるのか、国家以外のアクターがどういう役割を果たすのか、考えなくてはいけない。地に足のついた議論にするためにも、二つのことを課題として提示したい。1)今の国際法およびソフトローを考えたとき、平和をGCに入れるのは難しい。しかしながら、この分野は日本が貢献できるところだと思う。どういう範囲でどういうノームが可能か、日本がイニシアティブをとりながら世界のNGOと一緒にやっていければ、非常にユニークな貢献になる。2)平和を破壊するアライアンス(政府と非政府)は、見事に形成されている。だが、そのアライアンスに対抗する側も、まだもたもたしている。我々の力が弱いからだ。我々の問題として考えなくてはいけない点だろう。
(司会: 高橋一生 記録: 久保田有香)
[ii] 川崎『核拡散』(岩波新書、2003年)に概要。
[iii] Weapons of Mass Destruction Commission
(WMDC), Weapons of Terror, June 2006
www.wmdcommission.org; 邦訳版『大量破壊兵器 廃絶のための60の提言』(岩波書店)
2007年9月14日発売
[iv] 経産省「安全保障貿易管理」:http://www.meti.go.jp/policy/anpo/index.html
[v] (財)安全保障貿易管理センター:http://www.cistec.or.jp/
[vi] 日本経団連「実効ある安全保障貿易管理に向けて制度の再構築を求める」2007年3月
[vii] ピースプレッジ・ジャパン:http://www.peacepledge.gr.jp/
[viii] Parliamentary Network for
Nuclear Disarmament: http://www.gsinstitute.org/pnnd/
[ix] 民主党核軍縮促進議連に関しては、ピースデポのホームページ参照。
[x] ピースデポ『イアブック 核軍縮と平和』(高文研)に毎年の動向。www.peacedepot.org
[xi] 平和市長会議:www.mayorsforpeace.org
[xii] ヒュンダイ・アサン http://www.hyundai-asan.com/
[xiv] 例えば、UC Nuclear-Free Student Press
Conference, March 2003
http://www.wagingpeace.org/articles/2003/03/21_coffey_ucnf-press.htm
[xv] Nuclear Threat Initiative: www.nti.org
[xvii] 【お断り】本日の報告は研究成果の報告ではなく、問題提起という形式を通じて、ICU/COE-ICRA共同研究にどのように取り組んでいるのかを報告し、関係各位からフィードバックをいただくことを目的としています。