包括的な平和構築支援の必要性
前事務総長特別代表(東チモール事務所) 長谷川祐弘
《 報告要旨 》
東チモールは、国連が関与する平和活動における成功例として大いに注目されてきた。1999年の紛争後、独立を回復し、国際社会の支援の下、着実に平和構築と国家建設を進めてきたように外部の人達には思われた。しかし今年4月から5月にかけて首都ディリで発生した暴動と武力闘争はオーストラリアを主とした国際治安維持部隊に鎮圧してもらう結果となった。その後、多くの問題が解決されずに避難民は未だキャンプに留まっており東チモールの国づくりの根幹を揺るがせかねない事態に発展している。
国連は1999年8月31日に国民投票を行って以来、平和維持と平和構築の為にUNTAET1、
UNMISET2 そしてUNOTIL3 による支援を行ってきた。第一段階としてUNTAETは東チモールの国家警察隊と国家防衛軍を創設した。そして東チモール人代表による政権議会を通じて憲法を作成させ国家行政を営む政府の設立に成功した。2002 年4月には東チモールが国家として独立を成し遂げると平和維持・平和構築の土台が整備されたように国際社会は評価した。第二段階としてUNMISETは国家警察隊の育成と政府の行政能力の助成を行い、大統領府、国会そして司法府などの国家統治組織の機能強化を図った。そして第三段階においてUNMISETとUNOTILは法の支配と人権擁護に基づいた民主的政治体制の基盤づくりに取り組んできた。私は国連事務総長特別代表として、3回にわたり国連安全保障理事会において、現地の変遷する情勢と、国連の下での国造りの成果と課題について報告を行い、来年実施予定の大統領、議会選挙が自由で公正に施行されるよう、最低限度の国連警察と国連軍事要員を確保するよう要請してきた。それに対して安保理はこれ以上の国連ミッションの延長に極めて消極的な態度を取ってきた。しかし今年4・5月に起こった暴動とその後の不安定な事態を深く受け止め、二度にわたりUNOTILのマンデイト活動を合計3ヶ月間も延期した。その間に治安の回復策や選挙支援を含めた今後の国連の関わり方を検討した。8月には事務総長の勧告に基づいて新たに国連の人道支援そして開発援助機関を含めた国連東チモール合同ミッション(UNMIT)4を創設した。
暴動の発端は、国軍の中における東部出身者と西部出身者の待遇に差別が存在していると不満を主張した国軍兵士594人が彼らの処遇と人事制度の改善を求める嘆願書を出したことにある。元兵士はディリ市内で整然としたデモを実施していた。しかし、最終日の4月28日に反政府支持者や日々の不満を抱えた青年などがデモに便乗したことで状況は一転し元兵士グループの指揮官が制御できないほどに暴徒化した。そして国家警察隊が内部分裂するとアルカティリ首相の指令の下に軍隊が出動され武力闘争へと急展開した。5月に入ると、西部出身者が指導的な立場にいる警察隊と東部指導者が司令官の多くを占める国防軍との間の対立が深まり、23日には国軍の輸送車が攻撃され、24日には国軍の司令官の自宅が攻撃された。そして翌25日には、首都ディリにある国軍事務所に警官により砲弾が打ちこまれると国家警察隊の本部を国軍が包囲し総攻撃するという事態が生じた。無差別の攻撃により、無防備の警察官9人が死亡し、国連文民警察官2人を含めた27人の警察官が負傷した。
それではこのような武力闘争や内戦が東チモールや紛争後の国々で起こらないようにする為に平和構築支援活動は如何に行っていくべきであろうか。私は下記の各分野においての支援活動を、ただ単に統合するのみならず、包括・有機的に施行していくべきであると思う。
1. 当事国の国家機関と民間の真の民主的な政治行動力の養成
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セキュリティ・セクター・リフォーム(SSR)
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行政府・政府における組織育成を三段階まで包括的な支援
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立法府・国会と全政党の組織の育成と行政府の立法行為との統合
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司法府・裁判所の独立と公平性の確立
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大統領府の権力の確保
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民間・市民社会団体の建設的な介入
2. 国際社会の統合された支援
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国連システムと他の国際援助機関との協調政策の確保
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支援国コアグループ(Core Group)メンバー間の歴史観、利害関係と東チモールの未来像の確立
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非政府機関(NGO)の統一されたアプローチ
3. 国際社会からの支援の理念、概念、目的の一貫性
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先進諸国の真実・正義・公平・和解の概念と、現地の文化・社会慣習との融合調整
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政治・経済・社会・文化・言語の包括的な支援策
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憲政議会においての憲法作成の為の能動的関与
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大統領・議会選挙への積極的な介入
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人権擁護のための監視と組織作り
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透明な説明責任の持てる国家組織の理念と価値観の育成
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指導者の国民に対する責任感の助成
4. 国連事務総長特別代表としての役割
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現地ミッションの最高責任者としての役割
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政治的な介入の必要性
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理念に基づいた意思決定の必要性
この度の東チモールでの暴動と武力闘争は、ポール・コリエー教授が世界銀行に提出した『戦乱下の開発政策』で、「新たに独立した国の半数が紛争後5年以内に再び紛争状態に逆戻りする」という理論を実証したともいえよう。一連の暴動と治安悪化の根底にある原因は何であろうか。私には国家機関のバランスに欠けた権力のみならず、増加する失業者と貧困が紛争の原因であることは間違いない。しかし、それ以上に国の指導者や治安当局の人々の中に、武力で問題を解決しようとする思考(mindset)が存在することが最大の根底要因であると思われる。平和構築の実現には、究極的にはこういった人々の考え方を根底から変えていく息の長い取り組みが必要である。当事国の民主主義政治を養成していくためには三つの段階を踏まえて組織の統治能力を養っていくべきである。第一には知識と技術の移転。第二には国家機関の組織と管理能力の育成。そして第三として、各機関での理念と価値観の養成が必要である。
ラモス・ホルタ新首相は、平和の定着と民主主義国家づくりは長期的視野に基づく取り組みが必要だとして、国際社会の継続的な支援を強く要請している。私自身は国連がこの7年間に学んだ教訓を充分に生かして、当事国の指導者や支援国そして国連などの支援機関の抱いている歴史観、思想、政治、経済そして社会的な目的と利害関係を充分に把握しながら、包括的に支援活動を行うことが必要になってきていると思われる。
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1 UN
Transitional Administration in
2 UN
Mission of Support in
3 UN Office in Timor-Leste
4 UN
Integrated
《 全体討論 》
功刀
貴重な経験を話していただいた。今のようなお話は、多くの人に共有されるべきだと思うので、ぜひ本の出版も含め、今後も色々と発信していただきたい。質疑に入る前に東チモール大使であった旭大使から、日本の観点や各国との調整などについてお話を伺いたい。
旭
時間が限られているため、かなり乱暴な議論になってしまうかもしれないが、いくつか指摘させていただきたい。
なぜ紛争が起きたのか。今年、紛争が起きたときの私の第一印象は「だから言ったこっちゃない」といったものだった。私の赴任中から、東チモールは表面上はうまくいっていても、実に危うい状況であった。あのような脆い平和構築において、国連が引き上げたら駄目になるのは明らかだったと思う。また現地の指導者に問題があるため、平和の配当が全くうまくいっていなかった。第二に平和構築というものはPKO+アルファといわれるが、αの部分については、これといったモデルもなく、しかも既存のモデルではうまくいかない。αの部分は、長期的になりがちだが、それをバックアップするものもない。第三に、東チモールについての国際社会の関心が薄かった。差し迫った脅威感というものがなかったため、世論の対応も鈍かった。
東チモールでの経験をどう評価すべきか。長谷川氏が代表となったのは、国際社会の日本への期待感の表れであった。これは日本外交にとっては好機であったと思う。日本は東チモールに関わることによってアジアを重視するという姿勢を知らしめたし、進行中だった安保理改革の議論においても東チモールの成果が材料となった。平和構築に関しては、日本独自のメニューを作成するという可能性もある。その際には「人間の安全保障」概念が生きてくるであろう。
功刀
日本は東チモールの独立に対して冷たかった、という印象を持っているがいかがか。
旭
当時の冷戦下のパワー・ポリティックスでは仕方がない面もあったが、その後の外務省およびNGOのかかわりでニュートラライズされたのではないか。
功刀
長谷川さんが指摘された問題点のひとつ、国際社会がいつ誰の意見を聞いて手を引くのか、に関して質問したい。現地の国際機関間のコーディネーションが難しいことはよくわかるが、その場合にメディアに強くアピール力のあるNGOの利用は考えられないのか。また事務総長特別代表の数はここ3,4年の間に30人近くに増えているが、特別代表の役割について事務総長へのアクセスを含め、どうお考えになっているのか。
長谷川
コーディネーションだが、現地の問題の深さを安保理の主要国が理解しなかったことが問題だ。特に現地のマインドセット(思考方法)を理解しなかったことは致命的であった。東チモールの指導者はあくまで国連軍の駐在を求めているにも関わらず、現在展開しているのはオーストラリア軍であって、この点については今後の状況の泥沼化が予想できるだけに懸念が残る。
特別代表の役割だが、数が増えたのは必要性が増えたからだと思う。基本的には、特別代表は地域を対象とした問題ごとに設置されるべきだと思う。
NGOに関してだが、彼らの意見は貴重である。特に現地の権力の濫用について現地のNGOが果たす役割は重要である。しかしながら、セルフ・プロモーションによるメディアへの働きかけなど気をつけるべき点もある。
石垣
東チモールの独立後の状況に関してだが、国際機構や各国の対応もさることながら、東チモールの人々のガバナンス能力というものも考えなくてはいけないのではないか。
久山
コンフリクト・トラップを何とかして克服しなくてはならない。平和構築に関してだが、日本独自のメニューを作るというような動きはあるのか。
井上
平和構築の前提として選挙があると思うが、皆が参照できるような平和構築のベンチマークを設定することは可能か。
道傳
以前インタビューをさせていただいた際に、現地の人々のオーナーシップについて伺った。国連はオーナーシップの促進のためにいかなる取り組みをしているのか。
長谷川
国際社会がいつ手を引けるのか、という問題だが、それはその国の指導者達がトランスペアレントかつアカウンタブルであること、すなわち国民に対して説明責任をとること、の必要性を理解した時だと思う。コンフリクト・トラップを抜け出すためには、この意味で指導者達のマインドセットとメンタリティを変えなくてはならない。人間は、恐怖に面したときに、武力闘争など極端な行動に走る。指導者は、権力を維持するために、手下を持ち、武力を与え、敵を見つけ、恐怖心をあおる。この連鎖を外さなくてはいけない。
国連は真実を解明し正義を追求、回復するとしているが、このアプローチでは和解の可能性が低くなるときもある。ノルウェーは、国連とはニュアンスの違う和解への取りくみを行っており、どうしたら平和になれるかという点を第一にしている。日本が協力できることもあると思う。
ガバナンスに関連して、どうやってキャパシティを確立し、国連が出ていっても大丈夫なようにするかという課題がある。この解決のためには、Institutional governance capacity buildingの三段階にわたる必要条件を理解しなくてはいけない。第一の段階として技術や知識の移転、第二段階として各公的機関がgovernability のシステム作り作業のプロセスの過程を持っていること、第三段階として指導者がしっかりしていることが必要になる。
内田
東チモールについて指導者の質と制度化の必要性が指摘されたが、一般の人々にとっては日々の生活の向上が関心事であり、平和の配当が低かったことの問題もあるのではないか。彼らの生活が日々向上していれば、指導者達の闘争のインパクトも低いのではないか。
勝間
人道支援と政治プロセスの調整は、現場にいた自分も難しいと感じていた。両者の調整のために具体的に何ができるのか。人間の安全保障という概念はいかなる視座を提供できるのか。
長谷川
内田先生の指摘はその通りだ。マリ・アルカティリ首相は、権力への欲望が強い。軍隊を大統領の許可無く発動することで、結局国民の反発を招き、分裂状態を招いた。東チモールは世銀から一銭も借りていない。これは強い独立精神の現われだが、復興開発に資金を使わない極端な引き締め政策は、国民の生活改善のためにはいいものではない。平和の配当のためにも、借りるべきだったと言えるだろう。
功刀
質疑応答のなかで重要な点や今後の課題など指摘されたが、ぜひ本の出版などを通じて、より広く知らしめていただきたいと思う。
長谷川
最後にアインシュタインの言葉を紹介したい。The Significant problems cannot be solved at the same level of thinking when the problem was created. Knowledge is mightier than a sword, but imagination is better and stronger than knowledge. 今までの自分たちの知っているやり方で問題を処理しようとしているのでは駄目だということだと理解しているが、その通りだと思っている。 (司会:功刀達朗 記録:久保田有香)