国連システムにおける調達行政:迅速性や効率性をめざした取り組み

                    東京大学法学政治学研究科  坂根 徹

報告要旨

 

 国連システムにおける調達は人事や予算に比べて注目度が低く、十分には研究がなされていないが、緊急援助や平和維持・復興支援、途上国の開発といった国連諸機関の活動実施において、不可欠なプロセスである。本発表では、国連システムにおける物とサービスを購入し使用できるようにする行政活動、すなわち調達行政について、意義や概要を示しその分権的性格などの特徴を明らかにする。次いで、本部のみならずフィールドが存在する地域も含めた組織的側面、物やサービスの供給側であるビジネスセクターとの関係などに着目して、迅速性や効率性をめざした取り組みを紹介する。

 世銀を除く国連システムにおける調達の規模を見ると、2005年には物資の調達が約45億ドル、サービスの調達が約38億ドルの計約83億ドルとなっている。同年の国連システムの総支出規模が約210億ドルであるから、そのほぼ4割近くに相当しており、行財政上極めて重要な行政プロセスであることが分かる。

 国連システムは、国連、専門機関、付属機関より成る分権的な国際機関群であり、その調達も分権的に実施されている。つまり、特定の中央調達機関や強力な権限を有する調達政策策定の機関などは存在せず、基本的に各機関が独自に調達を実施しており、その調達規模や調達内容には機関間で大きな差異がある。そのような分権的な状況下でも、機関間の調達政策や調達実施における工夫がなされている。先ず、調達政策に関しては、各機関の調達部局の責任者によるインフォーマルな協議体であるIAPWG(機関間調達責任者ワーキング・グループ)及び、その事務局を努めるIAPSO(機関間調達調整・サービス実施機関)の活動によって、拘束力のない調達ガイドラインが作成され、業者登録や物品サービスコードの共通化などの成果が挙がっている。また、調達実施に関しても、UNOPS(国連プロジェクト・サービス機関)や前述のIAPSOのように、他の機関から調達の実施を依頼できる、独立性の高い専門の機関も存在している。

  UN(国連)、WFP(世界食糧計画)、UNICEF(国連児童基金)は、主要な調達実施機関であり、これらの3機関で全体の調達額の6割近くを占めている。これらの機関の主な調達内容は、UNでは空輸サービス、車両、情報機器・通信サービス等であり、WFPでは小麦やメイズなどの食糧や、輸送サービス、車両等であり、UNICEFではワクチン・医薬品や教育セット及びそれらの輸送サービス等である。上記の3機関は、単に調達額が大きいというに止まらず、平和維持活動、食糧援助、子供の保護育成という国連システムにおける極めて重要な任務を担っている機関である。また、途上国に主な活動のフィールドを有し、緊急のオペレーションもあり、迅速な調達が不可欠であるという共通性もある。そこでこれら3機関を取り上げ、本部とフィールドの距離の問題にいかに対処しているのかなどの組織的側面及び、ビジネスセクターとの関係の2点に焦点を当て、迅速で効率的な調達に寄与する取り組みを検討する。

 先ず、組織的側面に関しては、調達の実施と政策形成を統括する中央調達部局の設置、調達権限の本部からの分権化及び現地調達、本部とフィールドを繋ぐ地域レベルにおける調達及びロジスティクスの拠点の設置などの工夫が挙げられる。これらの措置によって、国連システムの調達において特に重要な迅速性や効率性などを追求している。また、調達活動の信頼性を確保するために、特に各機関における内部監査・査察組織の活動が活発に行われている。

 次に、ビジネスセクターとの関係であるが、調達行政を、国際機関の事務局内部の技術的な活動のみと捉えるべきではない。調達行政は、多様な主体が関与するガバナンス的な性格を持つ活動である。企業は、調達の供給側として調達行政において非常に重要な役割を果たしている。企業との関係における国連システムの特徴としては、個別の需要ごとに入札を行いその都度契約するだけでなく、一定期間について有効な供給条件を取り決める長期契約や、業者の登録・リスト化とそれに基づく入札への参加招請を行う制限的競争入札などの手法が挙げられる。それらによって、特定の相手方との比較的安定的かつ協力的な関係が形成されやすい点が挙げられる。これらの工夫により、調達業務の効率化、調達コストの削減、履行の確保、迅速で安定した物やサービスの調達などが可能になるというメリットがある。しかし、反面、企業と適切な距離と関係を保つことに留意する必要がある。また、特にフィールドに近い物やサービスの調達においては、個々の企業の信頼性に注意を払う必要がある。

 国連システムにおける調達行政の特徴は、以下のようにまとめることができる。すなわち、調達行政は、個々のオペレーション上必要であるのみならず、行財政上も非常に重要な行政プロセスである。国連システムの分権的性格を反映して、個別機関ごとに分権的な調達行政が実施されているが、調達政策や実施における機関間の協力も見られる。また、本部とフィールドの間の距離を克服するために調達・ロジスティクスの拠点の設置や分権化など組織的な工夫がなされている。さらに、主要な供給主体であるビジネスセクターとの間には、長期契約や制限競争入札により、安定的かつ協力的な関係が構築されている。これらの施策は、財政的なリソースが少なく緊急事態への対応が多い国連システムにおいて、迅速で効率的な調達の実現を目指した取り組みとして挙げることができる。

 

<主要参考文献>

坂根徹『国連システムと調達行政』(東京大学行政学研究会研究叢書1)、東京大学21世紀COEプログラム「先進国における《政策システム》の創出」、2005

坂根徹「国連システムにおける調達行政の一分析」、『国家学会雑誌』1187-8号、93-159頁、2005

 

 

全体討論

 

宮澤尚里(UNOPS)のコメント

坂根氏のご報告は,国連の全体的な調達制度の分析を行なううえで国連の各機関の調達実務を比較した点や各機関の調達制度を構造的,実務的に分析した点が興味深い.特に,@「個別機関における組織的側面」,A「ビジネスセクターとの関係」という2つの分析視角を取り上げた点は,我々(UNOPS)が業務を行ううえでも重視している点で興味深い.各機関の調達制度の類似点,更に相違点を考察することで,より効率的な国連の調達実務の方策を検討でき,非常に意義のある研究であると考える.

現在進められている国連改革でも調達制度は大きく取り上げられている.3月のコフィーアナン事務総長の報告書でも各機関の調達が重複している部分があり,国連の調達制度の効率性を高めてゆく必要性が指摘されている.今後重複している部分をどう改革していくべきか,ビジネスセクターと協力関係の公平性,透明性,効率性を高める問題は,UNOPSでも重視している点である.

東ティモールでの経験を踏まえて,お話しさせていただくと,紛争後,独立したばかりの地域で物資をいかに迅速に調達するかが鍵となった.特に,インフラ整備(道路整備,学校建設)では,海外から物資が届かず,プロジェクトが滞ったケースもあった.効率的に緊急事態に対応できるサプライチェーンをいかに構築できるという問題は,我々の業務では重要な課題である.

 UNOPSの調達状況について.UNOPSは,坂根氏のご報告でも言及があったように独立採算制を採っている.他の国連機関や被援助国政府,開発銀行から委託を受けて業務を行うことが多い.

全体的な規模(2005年)としては,7億ドルの調達を実施.内訳は,85%が役務,サービス.残り1億ドルは物資である.役務では,インフラ整備が多いため,建築,土木であり,その他,運搬,治安維持関連,選挙支援,平和構築支援分野がある.また,物資の調達では,IT備品,自動車,機械設備が多い.

中央調達制度について.コペンハーゲンに本部をもち,全体的な調整を行なう.近年,調達の現地化を促進しており,基本的には現地で調達できるものは現地で,現地で調達できないものは本部で実施.現地調達が近年増加しており,途上国からの調達が全体の60%,約4億ドルに相当する.2年前にドバイに調達部と備蓄基地を設置した.津波支援やイラク,アフガニスタンなど緊急支援を必要とする事態に対し,より迅速に対応できる体制を整えた.

UNOPSも長期契約を結んでいる.例えば,トヨタと日産である.その利点としては,緊急時に,即座に物資を調達できる点である.長期契約を結んでいる物資対象は,車両関係,発電機,地雷探知機,ラジオ等である.制限的競争入札について.グローバルマーケットプレイスを実施.インターネットで登録でき,登録された企業から選ぶ.

ビジネスセクターとの協力について.企業にとって国連と行なうビジネスのメリットについての調査を日本で実施した.メリットとしては,以下の3点が指摘できる.@国連組織とのビジネス開始で,途上国とのビジネスのきっかけが作れる.つまり,通常のビジネスでは困難の伴う途上国での販路拡大につながる.A国連とのビジネスが拡大する.B契約管理の簡素化.通常,ランプサム契約を採用.一括契約で迅速に実施できる.デメリットとしては,以下の2点が指摘できる.@治安の確保.企業側も紛争終結後の治安維持対策が必要.A緊急支援などの調達においては短期間で入札が行なわれるため,関心表明,入札に向けて企業側は迅速な対応が求められる.

 

藤田:@ 国連の調達が多いことが勉強になった.人をリソースとした場合,国連の中での人に関する調達システムはあるか.

A     ノウハウ,オペレーションについて.NGOが調達に関して,国連の情報,ノウハウを享受できないのか.

B     日本の緊急援助隊が国連の調達に関する情報,ノウハウについて享受した経験があるか.

C     防衛庁など,日本の行政機関が国連の調達に関して,学べることはあるか.または,学んだことはないのか.

 

坂根:@人のリソースについて.国連支出では,人件費が多い.そのような意味では,人のリソースは重要だが,調達に関する定義をモノ,サービスの購入としたので,正規雇用のプロフェッショナルな国際機関の職員(人)は調達に含まれていない.但し,委託,コンサルタントは,サービスの供給となるので定義に含まれる.もっともサービスの調達額(総論)は38億ドルになるが,この中では,食糧,PKOなどの輸送部門が多い.

Aについて,そのような意見には共感できる.調達を実施する際,似たようなものを調達することも起こるので協力できる部分は協力した方がよい.この点について,先月ローマのWFPでインタビューを行なった際,WFPNGOの調達をどの程度行なうのか聞いた.NGOの援助食糧をWFPが代わって調達することはあまりないということであった.しかし,将来的には協力があってしかるべきだと考える.実際,NGOのための調達を国連システムで行なっている例はある.例えば,代行調達を実施するIASPONGOのために車両の調達を行なっている.

   B,Cについて,日本にとっての示唆は重要な観点である.例えば,UNOPSは,フランス語圏アフリカへの日本の無償援助の調達を管理している.この観点については,将来的な課題としたい.

 

久山:国連システムの調達問題に関し若干補足すれば,私が仕事をしていたJIUも報告書を出しており,その中で機関間の重複解消のため例えば,UNOPSIASPOの合併を勧告している.因みに右勧告が実施されれば重複スタッフの排除等で少なくとも年間80万ドル削減できると試算されている.しかしこの勧告については,国連本部が様々な理由を述べ難色を示している.

 

坂根:UNOPSIASPOのマージンについては,コペンハーゲンで話を聞いた.難色を示しているのは,IASPOの側.IASPOは,規模が小さく,マネージメントをうまくやっていると主張している.今は状況が異なっているようだが,その当時,UNOPSはマネージメントの面で問題を持っていた.もっとも,久山先生が仰ったように,確かに業務の効率性の面からは両者には重複がある.

 

庄司:調達の現地化について.例として,カンボジアのPKOがある.この場合,タイから調達が行なわれ,その結果,タイ経済が潤った.しかし,調達後,金融危機が発生した.現地経済との関係は重要ではないか.

 

坂根:重要な点だと思う.調達の現地化は,現地経済に寄与するというメリットがある.調達をすることでビジネスのチャンスが生まれる.ただ,最近の国連改革でもprocurement from developing countries and countries in transitionという形で途上国からの調達を増大せよという要請がある.逆に,注意すべき点として,調達の現地化が現地経済に与える影響は,プラス面だけではない.例えば,緊急援助を行う際,様々な機関が活動してその国の他の地域や周辺国から調達する.その結果,需要が急増し価格が上昇し,現地の消費者に影響を与えることもある.WFPは,現地調達を実施する際,現地経済に与える負の影響という点を考慮することをポリシーとしている.プラクティスの面でどの程度,実施できているかということは,別の検討を要するが.

 

功刀:私は,3年間,カンボジアの人道援助(緊急援助)を行なった.緊急援助のフェーズが収まったあとであった.最初の緊急援助のフェーズでは迅速性と有効性が重視された.その後,効率性につながる段階があった.効率性がしっかりしていないと,信用を失い,ドナーのサプライがなくなる.

   人口活動については,長年に亘って実施するので,緊急援助ではないから,むしろ効率性の方が大事である.

   企業との関係では,IPPF(ロンドン本部)がやることとUNFPAがやることに重複がある.重複した調達を協力して実施するためのアレンジメントは,私が仕事をしている時にできた.

    分析視点について,効率性と迅速性で括るのは問題があるのではないか?場合によっては,効率性は大事ではない.ことに,国連の場合は,政治的機関であるから,いろいろな事態が起こった場合,アフリカ援助にしろ,中東援助にしろ,それが政治的に正しいか,政治的に有効性を有するかの方が効率性ということよりも重要となる.坂根さんがbusiness administrationのような観点から迅速性と効率性という視点で国連の調達制度を括ってしまうことには問題があるのではないか.カンボジアの緊急援助とUNFPAの活動に携わった経験から考えた場合,効率性と有効性については国連の場合,かなり異なった見方が必要なのではないかと感じた.従って,現地と本部の問題は,坂根さんは距離の問題としたが,ポリシーの問題ではないか.

   現地でどのようなやり方で何を調達するかということが本部の眼で見るとき,政治的に正しいかということが重要となる.おそらく,JIU1970年代から評価の基準として,@Policy-relevancy(国連システムではポリシーが重要で,それに如何に意義があるか),A effectivenessを挙げた.これは,一般論であって,長年の活動では,効率性が重視されるべきである.Policy-relevancyeffectivenessであることが,国連における,efficiencyによって,management accountabilityを一律に括ってしまうことは問題ではないか.

   宮澤さんへ質問.

   危険な地域では,イラクのように,CIMICへの軍隊(治安維持)のアウトソーシングがなされるが,UNOPSは,そのようなことを調達の対象にしたことがあるか.

 

宮澤:軍事関係の調達を実施したことはない.

 

坂根:多面的コメントをありがとうございます.

   今回の報告は,発表中にも申し上げましたように調達の全ての重要な面を包括的に扱っているのではない.功刀先生のご指摘の通り,効率性と迅速性だけではない.私の本と論文の中で政治的な側面について,論じている.政治的制約というのは,多くの面で見られるが,例えば,WFPであれば,ドナーの態度は重要(どこから買うように,自国から買うように,途上国から買うようにという圧力は今も存在する).

   本部と現地の関係は,ポリシーの問題というご指摘については,どれだけ現地で調達するかは,現地が決定するのではなく,本部が政治的側面を考慮して決定する.つまり権限の委譲を行なっている.最終的に本部がコントロールしている.

   Efficiency effectivenessの問題は,概念的だけでなく,国連システムのオペレーション,マネージメントの問題として重要である.90年代から続いているprocurement reformの観点では,Review of the efficiency of  the administrative and  financial functioning of the United Nationsというレポートが出され,タイトルとしては,効率性ということを強調している.この点も,私の著書を参考にしていただきたい.

 

碓氷:功刀先生の話のフォローアップという点から2点お聞きしたい.@Political effectivenessという視点もあるが,politicalだけでなく,technical effectivenessという視点もある.国連職員は,技術的問題に詳しいわけではなく監視しているだけで,技術的な情報は,ビジネス側が持っている.ビジネスが国連組織に入りこんでくる.例えば,FAOにはindustry divisionがあった.また先ほどの発表の中でWFPに出向している民間企業からのコンサルタントが住みついているという話があったが,手弁当サービスをして,自企業へ需要を増やすという面と早くプロジェクトの詳細計画,国連側としての見積書を作成する場合,技術的な情報がないと作成できないので,専門的な技術情報を提供してくれるという面の両面がある.

   Apolicy-relevantについて.国連システムの場合, ほとんどのオペレーション事業の財源が自発的拠出金である.財源の中には,調達先を指定または制限したひも付きのものも含まれる.政治的にはセンシティブな問題として残る.国連のオペレーションの場合,完全に純粋な国際公共財ではないので,受益者負担の原則が貫かれる.local counter part15%とかルールがある.国際行政学,国連行政といったPolicyという点からは,これらの問題にも触れた方がよいのではないか.

 

坂根:@technical effectivenessについて.その面も重要.例えば,WFPへ民間コンサルタントしていると発表の中で述べたたが,それは,輸送部門(具体的には海上輸送)のこと.船舶業界の場合,業界の専門情報(輸送条件,インコタームズ)が必要なので,民間のコンサルタントが出向し業務を行なうが,オペレーションの内容は,WFP職員と同様の仕事をしており,業務上,重要な役割を果たしている.また調達官の出身に関しては,ビジネスセクターから多くの人材を受け入れている.民間のノウハウを吸収する人事制度になっている.

   A政治的な側面について.民間企業ではないので,政治的側面は重要.これについては,例えば入札先の制限がある.WFPの場合,食糧の調達先が制限されている.調達でニーズを満たすことと効率性を満たすことが重要であるが,これらは,政治的制約のもとで達成される.例えばGMフード(遺伝子組み換えの食料)が,援助物資として,調達されることもある.ただし,WFPが輸送する場合,ドナー側とレシピアント側双方がGMフードを援助物資として輸送することに同意している必要がある.同意がない場合,GMフード以外の食糧を調達する.これはポリシーとして確立されている.GMに限らず,ドナーによる調達先の制限がある場合,食料価格のみならず輸送費までを含めた効率的な調達の点から調達先を特定した場合でも,ドナーの要請に反しているなら,そこからは調達できない.

    受益者負担,local counter partについて.今回は,あまり詳細に議論しなかったが,世界銀行の調達行政を分析する際,重要である.世銀,UNDPのような開発援助の分野では重要な問題である.今回の報告は,緊急援助を行なう機関を対象としたが,国連システムは今回取り上げた3機関でのみ構成されるわけではなく,調達行政は多様である.世銀の分析の場合,これらの問題は重要である.

 

橋本:調達行政全般における環境,社会的側面への影響についてお聞きしたい.

   緊急援助の場合,環境のことを考慮している余裕はないかもしれないが,WWFが地震後の復興事業をスマトラ,アチェで援助を実施した際,大量の木材が必要となった.この際,放置しておけば,スマトラ南部で森林が伐採される恐れがあった.緊急援助であっても,森林保護のため,現地ではなく日米から調達しようとしたが,日本からは様々な理由で送れなかった.(ニーズが伝わらなかった.金銭的問題)結局,アメリカ,カナダから調達した.この調達では,UNHCRが介在した.地震の後で,現場が混乱したり,現地語と英語を話せる人材が色々な機関に採用されたりということで,全体を調整してくれる組織があれば,うまくいったこともうまくいかなかった.たとえ,緊急援助でも環境への影響を考慮した政策立案や政策の実施が必要ではないか.

 

坂根:国内調達では,環境調達であるとか,環境を考慮した調達を行なうということが言われている.しかし,基本的に国連システムでは環境物品を価格優遇してまで調達するということはしていないのが現状である.どこまで環境面を考慮して調達するかは各機関に任されている.環境先進国のような環境政策が採用されていないのが現状である.環境面を考慮して,ポリシーを立て実施していくということは,将来的な課題である.

   ただし,環境以外の社会的側面について言えば,途上国からの調達を実施するということは,途上国の経済に貢献するということを考慮しているし,UNICEFが地雷を作っている企業や児童労働を使用している企業からは調達しないということを実施している.

 

功刀:UNIDOは,設立当初の趣旨から言えば,途上国の産業を技術的に援助しながら,企業とも協力しながら・・・.

 

碓氷:企業とは協力していない.UNIDOは,途上国の立場から多国籍企業をやっつけるという立場であった.監視機能が強かった.80年代,サッチャリズム,レーガニズムの影響の結果,ドナー側が資金を提供しないということで市場に優しいアプローチを採用するようになった.多国籍企業でWFP FAOのように,UNIDOにも,多国籍のプランテーションがindustry divisionを作り,多国籍企業からボランタリーな貢献(プロジェクトのアイディアや人材が提供された)をした.機関の存続,活性化のためには背に腹は代えられなかった.このことは,Technical effectivenessの問題につながる.つまり,ビジネス側は技術的問題を知っているので,便利ではある. 

   

功刀:体質が変化した.UNOPS UNIDOの活動の共通性はあるか.

 

碓氷:市場ベースのアプローチを原則にすると,国連のpolitical fairnessを貫けないのではないか.国連は,弱い国,貧しい国の立場から事業を実施するので,少々,効率性が悪くても,政治的に判断される傾向が強いのではないか.事業が小さいので,政治的に有効であることの方が大事で効率的であるということは重要ではないのではないか.

 

内田:総論部分で国連システムの支出の40%が調達に支出されて述べられ,各論部分での国連部分で大きいのは,PKO(輸送)やUNICEF(緊急援助)と述べられた.世銀を除いた国連の調達では緊急援助が多い.国連システムの調達のうち,PKOや緊急援助のような途上国や被災地への緊急援助の調達に関する割合はどのくらいで,国連の通常活動に必要な物品の調達の割合はどのくらいか.大半が緊急援助向けの調達に割り当てられているように見える.

 

坂根:オペレーションとしての調達とマネージメントとしての調達がある.この両者の割合を数字として把握していない.しかし,例えば,マネージメントとしての調達の割合を考える材料を示すとすると,国連システム全体の調達のうち国連大学は0.02%(2005年),ILO0.7%,FAO1.34%しか調達していない.かなりの部分がオペレーション部門にまわっているのではないか.

 

碓氷:本部というのは,基本的には,政治的機関.政治的機関は,様々な問題を議論する.オペレーション部門は,両方が見合うはずだが,見合うことはないので,ギャップが存在する.アクションの方になると,効率性であるとか,technical effectivenessということが重要となる.実際の活動では,ファンドができるが,25%は本部のスタッフの人件費になる.ドイツのGTZのように会社ベースでJICAのようなことをやっているところでは,25%は高いとしている.ブラウン(UNDP)の分析によると,100ドルのうち,8割はドナーの国にデリバリーのサービス(先進国の人々)に落ち,途上国の人に入るのは20ドル.このようなことは,国連行政の研究ではおもしろい点である.

 

中丸:民間企業では,CSRや環境重視という形でグローバルコンパクトに基づき,調達部門でsupply chain managementということを進めている.国連システムの調達機関が,そのようなコンセプトに基づき系統的,総合的にそのような調達を進める際,組織や考え方がどのようになっているのか.緊急性,迅速性ということを重視しているので,難しいとは思うが. 

 

久山:IAPGWのようなメカニズムはあるが,これはあくまでもインフォーマルなフォーラムであり,換言すれば,調達面で国連システム全体をカヴァーする公式のメカニズム(機関)もなければ政策もないため,各国連機関がばらばらに調達を行なっているというのが現状である.

 

中丸:民間企業では,このような問題は,ガバナンスの問題として捉えられており,国連にそのような機関がないとすると改善の道は大変.

 

久山:先に述べたJIUの報告書は国連システムの調達問題の改善策についての種々の勧告を含むものであるが,右報告書並びに関連する事務総長報告書(A/60/846/add.5)に関する審議が偶々先週から国連総会で始まった.これらの審議が国連の調達問題の改善(改革)につながることが期待される.

 

久山司会者のコメント

坂根氏による今回の研究報告は,国連システムにおける調達問題を迅速性,効率性という視点から捉えたものだが,視点をやや広げて国連改革における調達行政のあり方として問題を捉えた場合,いくつかの点が指摘できるかと考える.

1.まず,迅速性については,緊急事態への迅速な対応という意味では分権的体制は有効であろうが,国連改革という視点からは行き過ぎた分権的体制は各機関間の重複の持続につながり得るので何らかの改善措置が必要であり,また迅速性の確保から導入された制限的競争入札も国連の完全な競争入札原則に照らしややirregularな制度かと考える.

2.効率性に関しても,政治的機関たる国連の性格上制約がある.例えば途上国からの調達を増やすべしとの国連総会の要求は大げさに言えば国連の有史以来のものである.効率性の追求を政治的制約の下で如何に実効あるものとするかが国連にとって現実的課題である.尚,国連の調達行政に関わるスタッフの生産性は決して高いとは言えず,今後,E-procurementの導入促進とも相俟ってスタッフのトレーニングが必要.また途上国からの調達を増やすには途上国の調達能力を高めるための支援(capacity-building)が必要となる.

 何れにせよ,調達問題は国連改革の一つの大きな目玉でもあるので,戦略的且つ中長期的な観点からいろいろ要素を考慮して検討していくことが必要ではないか.

 

(司会:久山 純弘 記録:雨野 統)