地球憲章 ― 理念から実践へ

                広中和歌子 参議院議員 

《 報告要旨 》

 

 20世紀、人類は科学、技術、医学の進歩によってめざましい経済発展、富、長寿を手に入れたが、その反面、地球環境問題をはじめ、戦争の規模と被害の拡大など大きな課題を抱えることになった。20世紀は富める国、富める人々を生んだ一方で、貧しい国は一層貧しく、又、一国内における貧富の格差は増大している。寿命の伸びを享受する人々が増えた反面、今や62億の人間が人類にとって唯一の住み家であるこの地球上に存在し、その数は今後ますます増え、更に地球環境に負荷を与えるであろう。

その増え続ける人達がより豊かな暮らしを求めて、これまでのような経済発展を志向すれば、地球の資源は枯渇し、更なる環境破壊につながる。温暖化による異常気象、海面上昇、森林減少、砂漠化等々、こうした環境劣化によって貧しい人達の暮らしはますます貧しくなり、今後環境難民が発生する事態が起こらないとは限らない。貧困は人々の心にフラストレーションを生み、それが紛争に発展すれば、更なる貧困と環境破壊を生み出す。現在、世界の20%の国の人々が地球資源の80%を消費していると言われている。貧困に追い討ちをかけるような紛争や環境劣化の悪循環を断ちきり、グローバル・フェアネス―地球規模での公正な社会を作っていかなければならない―というのが、我々人類が足を踏み入れたばかりの21世紀の大きな課題ではなかろうか。

 

そんな中、環境問題の解決には条約や法令だけでは不充分で、人々の考え方、行動そのものを変えるような哲学、倫理観、行動規範が必要だという考え方に立ち、1987年、ブルントラント委員会の報告書「われら共通の未来(Our Common Future)」の中で地球憲章の作成が呼びかけられた。

その後、1992年ブラジルのリオで地球サミットが開催され、「持続可能な発展」が大きなテーマとなった。170ケ国の政府代表をはじめ、国連機関やNGO、宗教団体、市民などが参加したこの会議では「地球規模で考え、地域で行動する−Think Globally, Act Locally」という標語の下、討議がなされ、会議が採択したAgenda 21とリオ宣言の合意に基づき、その後各国は様々な取り組みを始めた。しかし、地球憲章については、IUCN(国際自然保護連合)をはじめいくつかのNGOがそれぞれ地球憲章案を提出したが、まとまるには至らなかった。

 RIOサミット後、「地球憲章」作成への新たな運動は1994年 M.ゴルバチョフ元ソ連邦大統領(グリ-ンクロス・インターナショナル代表)と M・ストロングRIO地球サミット事務総長(アース・カウンシル代表)を中心に、オランダのルベルス首相の支援で、新たなスタートをきった。1995年オランダはハーグのピース・パレスに世界中からNGOや宗教者、学者、国際機関の代表、政治家など大勢の人々が集まり、「地球憲章」を作る提案がなされ、その内容について二日間にわたるブレインストーミングが行われた。

その後、1997年、再びブラジル、リオでのRIO+5の会議が開催されたが、その会議と並行して地球憲章起草委員会が召集され、その成果が、RIO+5の会議で「地球憲章草案」として発表された。

この草案をもとに、世界中の人々の意見をできるだけ多く聴き、取り入れ、ピープルズ・チャーター、つまり“人々が作る地球憲章”にしようというM.ストロング氏の呼びかけで、世界各地で地球憲章委員を中心に更に作業は進行していった。

この地球憲章委員会に日本から参加した私は、日本の人々からの意見を取りいれるため、英語の原文を翻訳した。そのテキストをもとにグリーンクロスジャパンの支援の下、環境文明研究所を主宰する加藤三郎氏を中心としたグループが地球憲章を検討、更に加筆して地球憲章委員会本部に日本からの意見として送付された。

このように世界各地から寄せられた意見を更に集約し、地球憲章として纏め上げたのが哲学者の.ロックフェラー教授で、3年間の歳月をかけてそれは練り上げられた。それを受け、2000年3月、パリのユネスコ本部に地球憲章起草委員が集まり、最終稿を決定。そして同じ年の6月、再度ハーグのピースパレスに参集し、女王の御臨席の下、地球憲章は正式に発表された。

地球憲章は我々の唯一の住み家である地球に対する責任を分かち合い、お互いや他の生物への思いやりをもって、持続可能、かつ平和で公正な社会を、この21世紀に築くための価値や原則を謳い、行動規範を述べている。

それは、我々がこれまでの大量生産、大量消費、大量廃棄のパターンを改め、地球の資源を大切に使い、環境によりやさしい持続可能な社会に変えることによって、これ以上の環境劣化を食い止めようとするものだ。地域のコミュニティとそこに住む人々への配慮を忘れず、それぞれの文化や人々の暮らしを尊重しつつ、地球全体の環境を守っていこうというものだ。人権を守り、貧困をなくす努力を行い、識字率を高め、女性や少数民族に配慮した民主的で非暴力の社会を築こうとするものである。

 

さて、「地球憲章」を作り上げるこれまでの作業を第一段階とすれば、その理念を広めることによって人々の心の中に定着させ、日々の行動、活動に影響を与えるようになることが第二段階といえる。

2002年8月、ヨハネスブルグで開催されたRIO+10地球サミットから、この地球憲章の支持を広げていこうという運動が、地球憲章委員会の下、世界各地で既に始まっている。

アメリカ、オーストラリア、イタリヤ、フランス、メキシコ、ポルトガル、フィリピン、インドネシア等々、そして日本でも地球憲章推進日本委員会が発足し、地球憲章を人々に知ってもらう活動や会議がこれまで行われてきた。

例えば、地球憲章推進日本委員会は、この憲章を広める一助として、学校現場で副読本としてホームルームなどで使うことができないか、大学の授業、企業や地域の集会や活動の中で紹介して貰えないだろうか、県や市や町がこの地球憲章を採択してくれないだろうか、といったことを望んでいる。

 

2005年11月地球憲章委員会は、憲章成立5周年を記念してEarth  Charter+5の集会を再びオランダで開催することにした。これまで世界各地で多くの人々、団体を巻き込んで展開されてきた地球憲章発展の経過を検証すると同時に、今後の行動計画を考えるのが今回の会合の目的である。世界各地から400名がアムステルダム市内の元王宮、今はオランダ植民地時代の事物を展示する博物館となっている王立トロピカル会館に集い、過去5年間の活動を報告し、その経験や教訓を共有した。ベアトリクス女王、ルベルスオランダ元首相、S・ロックフェラー氏、バスマヨルダン王女なども参加し、今後の更なる発展に向けての努力を誓い合った。

私達日本から参加した4人(竹内(IGES)、長谷川(Toyota)、広中、ハイネケン(広中事務所))は、今後の日本での活動を「理念から実践へ」と位置づけ、地球憲章日本委員会に働きかけることにした。具体的には、これまで各人、各団体などが行ってきた環境にかかわる活動が地球憲章のどの部分に該当する活動であるかを位置づけるよう、インターネットを通じて呼びかける。それぞれの活動がテーマごとにグループ分けされ、情報を共有する。優れた活動を検証し、本部の地球憲章プライズにも推薦する。

 

21世紀の人々が平和で安全、かつ持続可能な地球社会を築くためには、互いに、そして他の生物に様々な形で配慮しなければならない、というごく当たり前のことを、この地球憲章は私達に思い出させてくれる。

どうか、それぞれのお立場で地球憲章の輪を広げて頂きたい。

 

 

 

地 球 憲 章 ― 行 動 戦 略 ―「理念から実践へ」

 

行動方針

「地球憲章+5」を経て、これまでの憲章の「普及」から、具体的な「行動」の段階に至っているという認識の下、今後は以下の方針で行動する。

 

1 「地球憲章日本行動委員会」を設置する。

2 各界各層において、地球憲章の全体又は一部を実現するための「地球憲章プロジェクト」を実施する。

3 「地球憲章日本賞」を設ける。

 

 

1  地球憲章日本行動 委員会

各グループの代表がメンバーとなる(以下は例示案)

 

経済界                                日本経団連、経済同友会、日商

労働界          連合

農民                         全農、全漁連、森林組合

NGO               気候ネット、市民運動全国センター

自治体          ICLEI、環境自治体会議

女性             地婦連

子ども・青年        こどもエコクラブ、日本青年会議所    

科学者          環境科学会、環境社会学会

芸術・宗教・言論界        日本ペンクラブ、日本新聞協会

     アジェンダ21の主要な社会グループを参照

 

 

2 「地球憲章プロジェクト」とは

 

教育などを 通じて、 個人・地域に地球憲章を 広めるだけではなく、 生態系保全、再生可能ネル

ギー導入、「足る 知る」ライフスタイルの実践、伝統的知識・技術の活用など、 地球憲章に盛り込まれている事項を具体的に実施する活動を幅広く「地球憲章 プロジェクト」と位置づける。

 

 

地球憲章プロジェクト  世界の例1

 

○「ローカル・アジェンダ21」の取組に地球憲章を活用(コスタリカ、スペイン、メキシコ)

 

○「地球憲章地域サミット」により、地域政策や個人の実践の中に地球憲章の原則を草の根で実施

  (Earth Charter Community Initiatives(米)

 

○持続性に向けた地域政策、社会づくりのために地球憲章を指針として活用

  (ジューンダラプ市(豪)、タタルスタン共和国(露)、   

   EarthCAT(米))

 

 

 

地球憲章プロジェクトの世界の例2

○ダム湖の水を保全するための環境教育ツールとして活用(イタイプ水力発電公営企業(ブラジル))

 

○環境教育を目的とするミュージカルの台本に活用

 (UNクラシック・ライブ(日本))

 

○持続可能な開発・平和研究に活用(国連平和大学)

 

教師・生徒の持続可能な未来に向けて地球憲章の考え方を伝えるため世界各地の学校を訪問   (The Brink Expedition(豪))

 

 

@ 既存の取組を地球憲章に位置づける

  日本行動委員会のメンバーを通じて地球憲章を末端まで配布し、 それぞれの団体が現在行っている各種の取組は、 「地球憲章の中の○○ に位置づけられる」ことを自ら明らかにする。それ によって、地球憲章を ENDORSE

 

 → 取組を行っている人は、その位置づけ・内 容を事務局HPに登録し、経験交流する

 

 

A「地球憲章プロジェクト」の企画・実施

  

  それぞれの団体は、地球憲章の△△ を実現するためのプロジェクト(「地球憲章プロジェクト」)を企画し、実施する。

  

 → 企画の段階から、事務局のHPに登録し、同種のプロジェクトを検討している全国のグループと情報交換する。

 

 

B「地球憲章プロジェクト」実施の資金 

「地球憲章プロジェクト」を実施しようとする団体は、事業場において徹底的な省エネ、節水などを行い、浮いた経費を地球憲章プロジェクト実施の資金に充てる。

 

     自治体の庁舎、学校で浮いた光熱費などは、地域の「地球憲章プロジェクト」に助成する予算方式にする(ドイツ Fifty−Fiftyの例参照)。

 

 

3「地球憲章日本賞」を設ける 

 

 毎年、「地球憲章プロジェクト」を対象に、「地球憲章日本賞」を募集し、企業部門、団体部門、

 自治体部門の各部門で表彰する。

 

 また、地球憲章本部が「地球憲章世界賞」を募集する場合には、日本から 受賞者を推薦する。

 

 

 

全体討論

 

功刀日本の一般市民や団体を地球憲章の実践へと自然に導く要件は何か。

 

広中:日本でもすでに多くの団体が環境に優しい行動をおこしている。ただ、そのような行動を起こすにあたって地球憲章の一部としての認識がないとすれば、ぜひ認識していただきたいと思っている。

 

功刀:どのようにすれば認識することが可能か。

 

広中:自分達で見つけていただいても、私達(日本地球憲章行動委員会)が見つけてもいいと思う。皆様も一つのことだけではなく、いろいろなところに関わる行動をしている。その評価付けについて、まだ十分に考えてはいないが、活動の一部が地球憲章に関わっているということでもよい。結果として共通のテーマで行動している方々の横のつながりが強くなるということも考えられるし、ネット上の交流も考えられる。

 

小林:私達はIGESの活動の一端としてグローバル・コンパクトなどにも関わっているが、そこでは企業体が参加を表明し組織として参加する。地球憲章については、一部についてのひっかかりが、会社の組織としての参加を慎重にさせるような気がする。やはり地球憲章の全部に賛同するというのが基本原則なのか。また地球憲章に関わる教育については、NGOやエコクラブによる課外活動における拡がりが今後あると思われるし、我々もやっていきたいと考えている。

 

広中:前半については、企業も全部受け入れなければいけないというのではなくて、この部分が素晴らしいから、その点でかかわり合っているというのもいいのではないかと個人的には思っている。そうなると、ほとんどの方が何らかの行動をしているということになる。そこから広がるのではないか。後半の点だが、正規の学校教育で対応していただくことも望ましいが、環境問題は幅も広く、学校側でも教えるのが大変という面もある。エコクラブなどに憲章を使っていただいて活動が広まるというのも素晴らしいのではないか。

 

久山:地球憲章は人々の憲章として生まれたわけだが、政府はどこかの段階でこれを正式にエンドースしたのか。

 

広中:憲章はリオ+10で提出され、議長ステートメントにもメンションされたが、ある国の反対が理由で最終的に採択するということに至らなかった。大変に残念であった。日本についていえば、これを環境庁がエンドースしているわけではない。しかしながら一人の文部大臣のリーダーシップでだいぶ変わるという側面もある。

 

久山:地球憲章は、92年のアジェンダ21をのっとったと考えていいのか。

 

高橋901月末、デクエヤルが92年の特別総会の事務局長をモーリス・ストロングに依頼した。話し合いの結果、特別総会では意味がない。史上初のサミット・レベルの総会であれば、少しは世の中が変わるかもしれないということになり、サミット・レベルを条件に、ストロングはその話を受けたという経緯がある。結果として92年のサミットの目的は、環境を中心とする文化革命というところまでいった。他方、南北の側面で、G77はこの機会を20世紀最後の南北交渉と位置づけた。結果として、リオでは憲章はできなかったが、文化革命における価値の側面を動かしていくには、2つの層が必要ということになった。まず市民社会・環境分野のNGOを入れたアース・カウンシルをコスタリカにつくる。もう一つは、政府レベルでNYの外交官用にCSDを作った。これらを動かすには定期的にレビュー会合をするしかないということで、97年、2002年とプロセスが続いている。サミットとカウンシルと憲章は、3重構造かつインテグラルなものであって、各々が展開することが期待されているのだと考えている。ある時期がくれば、その3つをトータルにみる時期がくると考えられていると思う。アジェンダ21というのはCSD用であって、それ自身が動くことは考えられていないのではないか。

 

谷村富士宮市民としての発言だが、現在、環境基本計画のもとで、市民でグローカル環境推進センターを立ち上げようという話がある。富士憲章もあるが、そこには広い視野がない。ローカルな場で活躍する市民が考えているのは、グローバルとローカルをどうリンクさせるかという問題であり、何かあればご教示いただきたい。

 

広中:地球憲章以外にも、憲章は同様の趣旨で色々と作られているが、色々あっても良いと考えている。憲章をつくる作業を通じて考えるということも、重要なものとして位置づけられる。他を否定するのではなく、乗せていくようにして自分がどの部分でどう環境に役立っているのかを考えていただけると、活動が厚みを増すのではないか。息の長い取り組みなので、あせらずにやって行くのが良いと思っている。

 

石井:政治家のリーダーシップ等について研究しているが、地球憲章を、ぜひ大きなムーブメントにしていただきたい。そのためには、ターゲットを若い人にすると動きやすいのではないか。その際は、文章で書かれたものを基礎にわかりやすいく視覚化する。例えば音楽とか映画にすることが考えられるが、その曲はいい曲でヒットするような曲でなければいけない。まず面白くないとだめだということを強調したい。

 

広中:ご紹介したUNクラシック・ライブにおいても、一人か二人、いい歌手とダンサーが参加していて大変素晴らしかった。だからこそ国連やカーネギーホールでの公演も可能だったのだと思う。ぜひいろいろとご教示いただきたい。

 

功刀:憲章は4つ折りパンフレットでは少々お説教気味の印象だが、解説付きのパンフレットは具体的で面白い。アイディアのいくつかをオーディオビジュアル化するアニメや、芝居的なものを若い人でやれば、面白いものが出来ると思う。「世界がもし100人の村だったら」の成功例を参考にしても良いのではないか。

 

広中:大変、面白いと思う。そのような取り組みは、私や数人ではキャパシティに限界がある。皆で大いに拡げていけたら楽しいと思う。原点はいい地球を子や孫に残したいということだ。

 

功刀:小林さんの指摘された点だが、企業が地球憲章の一部をのめないとすれば、どのような場合が考えられるか。

 

小林:遺伝子操作についていえば、農薬の使用が下がる作物もあるので環境にいいという主張もある。また遺伝子操作の大豆を使う企業も引っかかりを感じるだろう。また製薬会社なども慎重になる。

 

功刀:それらは解釈によって克服できる可能性もあるのではないか。

 

広中:出来るところから参加していただきたいと思っている。皆で考えていきたい。

 

(司会:功刀達朗  全体討論記録:久保田有香)