気候変動国際制度とNGO

COP11/MOP1後の「ポスト京都」交渉へ向けた政策科学的検討

蟹江憲史  東京工業大学助教授 

《 報告要旨 》

 

カナダのモントリオールにおいて2週間にわたって開催され(てい)る温暖化会議COP/MOPの報告及び、今後の気候変動交渉と制度の方向について報告する。いわゆる「ポスト京都」といわれる将来の国際的温暖化対策に関する国際会議開催前、ある新聞社の取材に対し「議定書に批准していない米国の囲い込みが始まるのではないか」と答えたが、それから2週間を経てどのような展望がなされるかを報告する。

 

とりわけ注目すべきなのは、NGO(非政府組織)の役割であろう。これまで、多国間協力体制から米国が離脱する「地球規模協力マイナス1カ国」体制が、温暖化対策にとどまらずいくつかの課題で発生していた。もとより、米国が他国を引き込む形での国際協力体制は60年代、70年代以降国際貿易体制をはじめとして多くの分野で見られてきた。アメリカが覇権を握っていた時代である。ところが、米国が一度離脱したにもかかわらず、国際政治・国際世論の圧力によって、米国が政策方針を転換して多国間協力に引き戻されるということになるとすれば、これまでに例を見ない事柄である。国際政治上の構造的変換が引き起こされるといって良い。それが気候変動分野で引き起こされうるのか、それともこれまでの構造が継続するのか、ひとつの鍵をNGOの参加が握っているといっても良い。

 

最大の二酸化炭素排出国の不参加という国際政治状況のもとで、NGOの交渉過程への参加は、地球規模問題に対する地球規模参加の欠如という課題にいかなる影響を及ぼしうるのか。「複合的なガバナンス」を必要とする気候変動問題において、NGO(非政府組織)はいかに多国間合意形成過程に関与し、影響を及ぼし、あるいは関与や影響の可能性を持っているのだろうか。このような問いに答えたいと考えている。

 

加えて、特に温暖化への「適応」問題を発展途上国において考える上では、開発目標に応じたテーラーメードの対応策を講じる必要があるといわれるが、その制度的展開はまだ十分扱われていない。ここで多国間交渉と国内政策との「タテのリンク」を効果的に結びつけるのがNGOの役割だといってよい。京都議定書の第1約束期間が終了する2013年以降の国際制度議論の近年の動向を鑑みると、この交渉では温室効果ガスの排出削減のみならず、恐らくは不可避となりつつある気候変動の影響にどのように適応していくかという課題にも関心が高まり、国際交渉においてもその両者が取り上げられることが多くの論者によって予想されている。排出削減はもとより気候変動への適応という課題になると、適応という新たな政策目標と、従来から存在する経済開発といった政策目標との間の調整という「複合的なガバナンス」をいかに実現していくかが、とりわけ気候変化に脆弱な開発途上地域において重要性を増してくる。「複合的なガバナンス」へ向けた制度的変化は、国家を中心とする「国際」制度や単一政策目標を扱う「単純なガバナンス」からの変化を検討する理論的課題であるとともに、実務的課題としても重要なものとして認識する必要がある。

 

このように「複合的なガバナンス」を必要とする気候変動問題において、その実現を可能にする一つの媒体としてNGO(非政府組織)に注目して、COP11/MOP1の報告を行う。複合的なガバナンスへ向けた制度的変化は、地方レベル、国家レベルから、地域レベル、地球規模レベルへと重層的に連なる公共部門のすべてのレベルで生じる必要があるが、国家中心の国際制度枠組による気候変動レジームにおいては、NGOはすべての「タテ」のレベルで政策への関与が可能な行為主体となっているからである。

 

 

 

《 全体討論 》

 

碓氷:前半は、COP11/MOP1の会議の経過のまとめであり、後半はご自身の最近のご関心に焦点を置いたものか。

 

蟹江:そうである。

 

碓氷:日本経済新聞をみると、COPの会議では何も起こらなかったと書かれていたが、蟹江さんのお話では、前向きな評価がなされている。前向きの要素とは、ルール・メーキングへの道は遠いので、キャパシティ・ビルディングからはじめるということか。合意はできていないが、上手く進んでいるということか。また、インダストリのNGOとは何か。CSRまたはWBCSDのようなものなのか。コンサルティングをするようなポジティブな存在なのか、経団連のようにある意味ネガティブな存在なのか。さらに、バーティカル・リンケージの意味は何か。2レベルゲームだと、NGOが縦のリンクで活動し、市民を動かし、その声が政府に届く。また、相手国の国内の世論を変えるために活動するということもある。

 

蟹江:日本経済新聞の記者は、専門的な話なので全体像が必ずしも把握しきれていないということを、知り合いの記者から聞いたことがある。ルール・メーキングやキャパシティ・ビルディングは国連のプロセスに含まれるものであり、アクション、とくに、技術開発・技術移転に関しては、国連外のパートナーシップのもとに行われはじめている。中国、インドなど、近い将来大排出国になることが明らかな国で、しかし、排出削減目標をとってもらうには酷な国に対しては、技術開発などを中心にパートナーシップを組んで、そこでアクションをするという方向性が強まっている。とくに中国はエネルギー問題に力を入れており、再生可能なエネルギーの割合を2020年までに15%にするという目標を持っている。この目標と、技術移転などのパートナーシップの枠組みが絡み始めているという印象をもっている。中国は、CDMのプロジェクトから利益が得られるとも思い始めているようだ。このようなことを考えていくと、アメリカが議定書に入っていないことは結果的には案外悪いことではないかもしれない。次に、インダストリNGOについてだが、彼らは多様な背景を持っている。経団連から来た人たちも政府にロビーイングして圧力をかけるなど、かなり戦略的に動いていた。彼らは、温暖化対策においては、短期的な目標よりむしろ、ビジネスの方向性が分かってくるので、長期的な目標を好む。さらに、バーティカル・リンケージについてであるが、最近は、とくにオラン・ヤングによると、バーティカル・リンケージをバーティカル・インタープレイというようだ。また、IHTPというグローバル・チェンジに関する国際的な研究ネットワーク内の一つのグループによると、制度的なリンクを見る際のキーワードは、フィット、スケール、インタープレイであり、インタープレイには、ホリゾンタルなインタープレイとバーティカルなインタープレイがある。2レベルゲームの話よりも、このインタープレイを見なければ、世界的な環境対策の制度的な話ができないと言われている。オラン・ヤングは、コンセプチュアルな話をしているが、それを具体的なケース・スタディのレベルで見ていこうという動きがあるので、今後注目していきたい。

 

小林:アメリカの参加をどうするかという点に議論が集中しているが、途上国の参加を促した上で、アメリカが入れるような枠組みをどうやって作り出すかという発想がもう少しあってもいいのではないか。削減目標も、途上国側が設定し、それがグローバルなクライメット・レジーム形成につながるのだという意識で、アメリカを呼び込む土俵をつくるということがもう少し考えられないか。

 

功刀:カリフォルニアやニューヨークが、州の中で独自にやる場合、単位は国ではないが、これからのダイアローグやアクションに参加できるのか。

 

蟹江:できないと思う。あくまでもボランタリーなものになる。先ほどの、途上国のボランタリーなコミットメントに関しては、京都議定書の枠内では、先進国の義務だけではなく、途上国のボランタリーな目標も話に含めるという結論になった。ロシアが入れることを主張したようだ。

 

久山:ハイブリッド・モードは、今回の会議では有効であったと感じられたのか。国連の枠外での合意形成が進んでいるとのことだが、アメリカの存在が影響しているのではないか。また、それは短期的なものではないのか。

 

谷村:ハイブリッド NGOの正統性はどのように考えられるのか。呼び込んだ政府がNGOに正統性を与えるのか。先進国であるスイス、ベルギー等がNGOを送り込んでいるというが、むしろ、途上国側がハイブリッドNGOを取り込もうとするのではないか。表の中にはかなりの数のNGOが存在しているが、途上国がこのような戦略をとっているケースは、どのくらいになるのか。また、NGOの中には、GONGO(政府系NGO)と呼ばれるものもあり、それらは国益にもとづいた活動を展開している。マルティ・ステイクホルダーと見えても、実はそうではない部分があり、今後注視すべき課題と考える。

 

石井NGOといっても、様々な種類のものがあり、御用NGOも存在する。ヨーロッパの小国のNGOにはとくに注意が必要ではなか。NGOのカテゴライズが重要だろう。

 

蟹江:ファシリテーション、交渉をファシリテートする、参加を促すという観点から、ハイブリッド・モードが重要だといえる。国連の枠外での動きに関してだが、今回の温暖化の交渉を見る限りでは、国際政治上非常に面白いことが起きるのではないかと思われる。そもそもアメリカの覇権が強ければ、京都議定書は発効しなかったはずである。アメリカには以前ほどの力がなくなっていることを示している。アメリカは技術開発においてイニシアティブをとっているが、目標設定がある方が多く排出した分を売ることができるので、マルティラテラルな方に、突然戻ってくる可能性もある。また、ハイブリッドNGOの正統性は、政府が与えることになる。しかし、NGOの種類は多いので、選ぶプロセスなどが今後の検討課題であろう。インドネシアや南アフリカは、コンスタントにNGOを入れている。中国の例は、難しい。マルティ・ステイクホルダー・ダイアローグということが実現すれば、政府というより直接的に国連と結びつく。国の枠を超えたNGOが出てくることもあるかもしれないが、今後の検討課題であろう。

 

功刀:インターリンケージを動態的なプロセスとして捉えるならば、むしろインタープレイと云い直した方がよいだろう。インターリンクしている静態的関連性より、シナジーを生む相互作用を重視することが重要だ。

 

蟹江:インターリンケージも含んだインタープレイである。

 

 

(司会:功刀達朗  全体討論記録:千葉尚子)