熱帯林・木材をめぐる国際協力の枠組み−現状と方向性

石川竹一




報告要旨

 日本の国土の半分にのぼる面積の森林が一年間になくなっている。これは、一般的には大変なことと認識されている。多くの人にとって、『森は「 」にとって「 」である』という質問に対して『森は私達にとって必要である』というのが例外なき解答として挙げられる。では、スマトラでの津波という事件に対して、おそらくはかわいそうと感じたはずだが、しかし、スマトラの中に自分の家族がいたらどのように感じるか? おそらく、かわいそうということでは済まない。森の問題について、自分たちにとっての問題として、また、その重大性を認識した場合、見方は一変するはず。個々人の森の記憶をもとに森林の問題を考えることが重要である。
 年間1,500万ヘクタールの森林がなくなっている。そのほとんど全てが熱帯林である。その原因には貧困がある。熱帯林は、アジア、ラテンアメリカ、アフリカに広がっているが、ラテンアメリカでは牧場化の問題、アジアでは農地化、そしてアフリカでは森林が燃料・燃材になってしまうという問題がある。
 森は経済や経済活動と全く対極に有る。人間の活動は総じて経済効率、能率を上げることに主眼が置かれている。もし、地球上に人間がいなければ環境問題は発生しない現在のペースで熱帯林が失われて行くと、計算上では大体100年で地球上から熱帯林は消滅する。森林の問題について、民間、NGO、国連、バイ・ラテラルなどそれぞれの取り組みはみんなしっかりやっていると評価することもできる。しかし、それは何に対してしっかりやっているのか? 個々のアクターやそれぞれのプロジェクトではなく「地球にとって」という尺度であれば、その取り組みは不充分なのではないか。
 500近く有る国連関係の機構のうち、本部が日本にあるのは国連大学とITTOだけであるが、ITTOの日本誘致の際は国際貢献をしようという意思に基づいていた。現在の世界をリードしているのは、国ではなくて、新しい価値の創造と捉えることができる。例えば、技術の革新によるインターネットはそれ自身が価値を有し、価値の手法をもって、力を得て、世界を動かすことにつながる。世界には、犯罪、貧困、ジェンダーなど様々な問題があるが、それに対して取り組むうえで重要となる価値が生まれてきている。それは様々な側面で見ることができるが、新しい価値の創造につき身近な例で言えば、例えば、ディズニーランドは大人が遊ぶという新しい価値の創造であった。世界銀行の取り組みは、金利の安いところから、高いところへということを実現した。
 森林問題は、いろいろな専門家が集まって、新しい価値を作っていくことに意味がある。では、どのような価値を作ることができるのか。例えば、イリーガルロッギングについてのコンセンサス、サティフィケーションについてのコンセンサスなどがあるが、これらには日本の社会科学が貢献できる分野があるかもしれない。日本発の新しい貢献ができるかもしれないと思われる。
 それをどうやって世界に発信するか? 世界が何らかの概念によって動くとき、どういうメカニズムで動くのか? マルチの仕組みは、バイラテラルとは異なる。また経済のダイナミズムは、政治や法律と違う。二つの相違点としては内観、価値を徹底的に、有効かどうかの検証をマルチラテラルの枠組みで行う。もしそれが可能であれば、提案の際には、自分の案を、交渉の場裏に乗せる際には非難を浴びても、真実発見のプロセスと捉える。極めて重要な情報を提供して、徹底した議論を行う。これはバイラテラルにおける妥協や孤立を避けるという交渉のやり方との対極に有る。このやり方において、日本がリーダーシップを取れる方法があるのではないか。
 1983年条約案が国連会議で採択され、1985年に発効したITTO条約には期待が集まっていた。WB、FAO、UNEPなど多くの国際機関が森林の問題を扱っているが、不充分である。2004年暮れから、第3回協定に向けて現在交渉中。世界の多くの国々にとって、森林問題は外貨の獲得源、雇用の問題であり、特に途上国にとっては大きな問題である。1994年協定時、実際には妥結しなかったが、議長による一方的妥結宣言というのが現実であった。それは条約作成の困難さを痛感させられた。

 

問題提起

 熱帯林の問題について、専門家であれば有るほど解決が困難。それぞれのプログラムの成果と、世界の森林問題は異なる。「小さい努力が実を結ぶかもしれない」という取り組み側の認識の一方で、計算上、問題解決に残されているのは100年しかないというタイムフレームの問題がある。森林は、温暖化の問題をはじめ、地域の産業発展、バイオダイバーシティ(熱帯林は種の宝庫といわれる)、エイズ薬、白血病の薬など、様々な重要性を持っている。
 経済発展しなくてはならないという認識があるが、そうした人間の活動は、森林の保護とは対極に有る問題である。森林問題は一向に止まらない。未だ有効な処方箋はなく、どうやって国際社会にオープンにして行くかという方法論が重要。
 森はサーティフィケーション、ロッギングに対処するのみで良いのか。何か違うものが必要ではないか。もし、全ての人々が現在の困難な状況を認知すると、何か変わるきっかけになるのではないか。したがって、まず状況を十分に知るということが重要であり、取り組みを国ベース、地域ベース、村ベースで行い、それを世界の人が知ることが重要である。

 

全体討論・質疑応答

谷村:熱帯林のほかの森林も失われている。例えば、中国の森林伐採の禁止政策があり、ロシアでも森林が失われている問題があるが、なぜ熱帯林なのか。
石川:熱帯林は失われる。その跡地は畑になり、道路になり、なくなってしまう。他方、多くの温帯林は劣化すれども森林のまま残される。ITTOが、なぜ熱帯林問題に取り組むかといえば、それは問題の重要度レベルが違うからである。また、熱帯林の場合、プラントサクセッションの最終の姿である。たしかに寒帯林も大変な問題ではある。ただ、ロシアの場合林地として残る。熱帯の場合は農地になるというのが問題。
功刀:国内産の木材の価格が低いために、日本の林業はうまく行かなくなるが、熱帯木材の価格を徐々に上げることはできないのか?
石川:価格が低いから問題なのか、高いから問題なのか、経済需給の側面からのはっきりしたことがわからない。その辺りの研究は殆どなく、はっきりとした結論が出ていない。また、森林学的にも森は使ったほうがいいのか、あるいは使わないほうがいいのか、見解の対立もある。現状ではそれぞれのステークホルダーがポジションをより明らかにする必要がある。産業界は、利用すべきだという。また、自然保護団体は、触れるなという。議論のコンセンサスがそもそもない。
功刀:一次森林と、二次森林の差異は大きい。一次森林については出来る限り使わないほうがいいのではないのか。熱帯雨林を持つ国は、森林資源の価値の一部でしかない材木の伐採とそれを輸出に回すコストだけで、森林資源が売られてしまう。
石川:先述のようにこの点の統一的な研究レポートが全くなく、議論の土台が存在しない。
熱帯林は、森は心が安らぐ、ことに原生林は最も安らぐ。それは科学的に実証されている。古い森ほど、物質を出している。その点においては、森林の重要性は認められ得る。
内田:適正な伐採、保全のための価格帯というのがあるのではないか。
石川:クライテリア・インディケーターをITTOが作成したが、他の機関が、結集してこない。ITTOはOne of themになってしまっている。国連システムでの経済問題への取り組みは、バイの取り組みとは異なると考える。経済はある国が取ったら、ある国は取られる。しかし、マルチの場合の原則はちがうのではないか。外交の基本である、孤立化しない、妥協といったことではなく、新しい価値が世界に貢献しているかどうかが合意形成の基準ではないか。そのために新しい価値を生み出す内観が必要で、新しい価値体系の構築が重要と考えている。
内田:バイの交渉も必ずしもゼロサムではない。マルチであっても交渉が必ずしもWin-Winではない。例えばブレトンウッズ体制では、マルチといえど、極端にアメリカよりである。したがって、熱帯雨林に関しては特にマルチが有効だという事があるのか。
石川:熱帯雨林の枠組み固有の要素については今後の課題としたい。
毛利:交渉の枠組みが問題を定義する能力をもっており、森林問題を国際社会におけるアジェンダセッティングにおける定義レベルに持って行くことができるかどうかが課題。それは個別国家のイニシアチブなのか、国際組織なのか、市民社会なのか、例えばアンチグローバリゼーションもその例の一つである。ITTOについて、木材の商品協定と思っていた認識が改められた。消費国と産出国だけで構成されており、森林保護という観点、持続可能性については行き届いていないのでは、と思っていた。その上で、事務局と、様々な国で構成される締約国のギャップはどうなっているのか。
石川・功刀(熱帯木材協定国連会議の議長を務めた経験から):ITTOは商品協定9つのうちの一つとしてはじまった。コーヒー、ココア、ジュートなど。しかし、熱帯雨林については極めて多くの人々がステークホルダーであり、社会問題化された。実は、内容は総合条約であった。環境、森林の保護、広くは地球のbiosphereのequilibrium保全への考慮も盛り込まれた。75%は造林の問題だった。木材の貿易、加工はUNが関与する問題ではないということを反映しているのか。保護などはUNマタ−になじむという認識からなのかは、はっきりしない点もある。次の交渉は、名称変更−国際熱帯森林機関へ、という問題もある。当初から、そのアイディアはあった。それには条約の内容的に相当変える必要性がある。ITTOの仕事には、市場の安定、輸出木材の加工度を向上するための支援も含まれる。造林は、はじめはあまり関心がなかったが、近年、活動資金の70%という多額が造林にふり向けられている事を嬉しく思う。本来、熱帯木材は石油に次いで大きな商品貿易に関する協定であったが、木材協定から森林条約への発展が期待される。
毛利:WTOの枠組みで言うとMEAにはいるのか。
石川・功刀:環境保護や森林資源の保全という視点を主要目的の一つとしようとすれば、反対が多くなり成立できなかったであろう。アラブ諸国は、ITTOをMEAに入れる。但し、取引の材料とされてしまっていて、現在交渉はスタックしている。また、カナダ、マレーシアの反対もある。今後、徐々にITTOの性格も変わっていくのではないか。国際組織の変化もあり、援助ではなくて、貿易で森林問題への取り組みを行うことの意義は大きい。また、価格安定機構としての役割もある。多くの商品協定の中で、唯一残ったのは、ITTOだったが、環境、森林などの重要問題への取り組みが活動に含まれているからと云えよう。
上杉:貧困がそのままの状態にとどまっていれば、森林は破壊されず、森林の開発をしなくてもいいという主張も論理としては成り立ち得る。しかし、貧困は人間社会にとって問題であり、対処が必要。人間として適切な生存レベルの維持によって、森林と相互に維持されるのではないか。
石川:地球は意外に復元力がある。過剰な開発が行われなければ、地球資源の適正水準は保たれるかもしれない。しかし、これは未解決の問題である。生産国である発展途上国の発展と森林減少が結びついている。

記録:村上公裕



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