2013年以降の気候変動レジームをめぐる国際討議の動向
蟹江憲史
■報告要旨
現在国内外で、将来の地球温暖化対策の制度的枠組をどのようにすべきか、という議論が次第に熱を帯びつつある。議論の一部は昨年11月19、20日付日本経済新聞「経済教室」でも紹介された。地球温暖化問題の国際交渉が行われる場であるCOP(気候変動枠組条約締約国会議)はまた、この問題に関する最新の政策研究の知見が、国際交渉と同時並行的に紹介・議論される一種の「政策学会」のような場を提供してもいる(サイド・イベント)が、昨年12月のCOP9でも、将来の制度枠組に関する様々な知見が紹介された。COP9は国際交渉としての進展はそれほど目立ったものが無かったが、将来の交渉を見据えたサイド・イベントが非常に充実していた、というのが、政府代表、研究者、NGO関係者等の別なく会議参加者の正直な感想ではなかろうか。京都議定書の延長線上に将来の制度設計を行うか、あるいは全く新たな制度枠組を構築していくのか、という議論が、非常に熱を帯び始めてきている。
議論の主要論点には以下のようなものがある。
- コミットメントの法的性格: 法的拘束力の有無
- コミットメントの種類(←絶対的数値目標は賛否両論→相対目標へ?):
- 地球規模のアクションか一部の国(地域)でのアクションか
- 質的目標か量的目標か
- 数値目標の場合、絶対目標か相対目標か
- コミットメント分担(分配)方法: 誓約ベース(京都型のボトムアップ・アプローチ)か、理念・原則ベースか(トップダウン)
- 範囲: どのガスを含めるか、物理的(地理的)範囲をどうするか(プロジェクト・ベースか、セクター別か、自治体(州)レベルか、地域レベルか、地球規模か)、時間的範囲(タイムフレーム)をどうするか
- 市場メカニズムの扱い: プロジェクト・ベースか、セクター・ベースか、国際的排出量取引市場発足か
- 財政的・技術的コミットメント
- モニタリング・報告: リポーティング、レビュー方式、非遵守の扱いなど
- 公平性
- 費用対効果
また、これらの論点をめぐる国家のポジションを決定する要因としては、以下のようなものが考えられよう。
- 気候変動の影響と脆弱性
- 経済成長の度合いと産業構造
- 排出量/一人当たり排出量
- 歴史的排出量総計(これまで)と将来の発展に必要な排出量(これから)
- 世論(⇔多様な行為主体とのパートナーシップの如何)
- その他社会的、文化的要因
これらの論点と国家のポジション決定要因を考慮に入れながら、現在将来の気候変動レジームに関する様々なプロポーザルが研究者レベルで出始めている。その数は多く、それらの要点については、先般出版されたIGES/NIESのCOP9サイドイベント報告書に掲載されている。プロポーザルを整理すると、以下の4つの大きな流れに分類できよう。
1. 現状から:京都議定書の延長“Kyoto
Plus”
・Non-Binding targets
・Dynamic targets
2. 理念から
・公平性
3. 途上国への関心
・Development first
・拡大CDM/取引市場への参入
4. 技術革新に関する合意(Technology agreements)−アメリカ用?
それぞれのプロポーザルは、上記論点について一長一短というのが現状であり、その最適なミックスをどう作り出していくか、そしてそれについてどう政治的合意を取り付けていくか、が今後の課題となろう。この問題を解決するための最大の難点は、コストとベネフィットが不確実な点にある。しかし、プロポーザルのミックスにより何とか解決策は見出せそうではある。鍵となるのは、技術開発との補完関係、あるいは、持続可能な開発との補完関係であるといえよう。
現在の議論に欠けているのは、一つは、大きな国連の機構改革議論との関連性である。国連の機構改革とのリンクにより、新たな突破口が開ける可能性はある。また、パートナーシップ創出という視点も、明示的に出てはいない。セクター別での目標設定や、マルチステークホルダー・ダイアローグのようなフォーラムによって合意形成を行うというアプローチも、今後考えられて良いものであろう。
■全体討論
京都報告書の今後の方向づけに関して、さまざまな提案がシンクタンクなどによってなされているが、それらは水面下で関係政府機関の意向を汲んで策定されたものと考えてよい。
各国の動きとしては、次の通りである。
イギリス:白書(Our Energy Future)にて、2050年までに二酸化炭素の50%削減を目標に掲げている。
ドイツ:再生可能エネルギーに重点をおき、今年6月には世界会議も予定。
アメリカ:政府レベルでは京都議定書に否定的であるが、州レベルではかなり前向きな動きもあり、反対一色ではない。
ロシア:早急に投資を得たい産業界、地方の声を背景に、最終的には批准するとみられるが、アメリカ、EUから個々の働きかけもあり、条件交渉を活発に展開すると考えられる。
気候変動を環境・持続可能な開発な発展の中心にすえ、国連改革にも結び付けたいとの声があがっているが、エネルギー問題を正面から取り上げることを避けてきた国連に、どのような手が打てるのかは疑問である。
京都議定書の発効にめどがたたないが、実際には排出権取引市場がリンクされつつある。
今後、京都議定書の方向づけは、必然的に、地上国との関係をどのように描くかに関わっている。経済発展と共に軽減されていく古典的な環境問題とは異なり、まさに経済発展とともに深刻化する温暖化ガスのような環境問題を、いかに開発アプローチとの関係で整理し、工夫できるかが大きな論点となろう。
再生可能エネルギーへのアクセスの提供は、経済成長と温暖化ガスの排出とを切り離すひとつの方策である。地域レベルの取り組みから得られた知識を、グローバルに共有化することも重要であろう。
司会: 松下和夫(京大)
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