人道支援とNGO:
イラク紛争に見る、日・米・欧政府とNGOの関係を中心に

長(おさ)有紀枝




■報告要旨

    報告者は、91年から2003年まで日本のNGOにおいて、カンボジア、旧ユーゴ、ルワンダ、チェチェン、アフガニスタンやイラクにおける紛争下あるいは紛争後の人道・復興支援に直接・間接に携わってきた。また2002〜03年にかけては、わが国の官民合同の人道援助システム「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」の代表職を務めた経験をもつ。この間自身が軍隊との協力、官民の合同事業、あるいは両者の緊張関係を体験しつつ、明確な定義づけもないまま様々な局面で、多用・乱用されている人道援助という概念、及びわが国における人道援助のあり方について広範な研究の必要性を痛感するに至っている。本研究会では人道支援に関連して、以下5つのテーマについて問題提起を行い、参加者の皆さまと意見交換を行いたい。

1. 人道援助のアクター及び人道援助の定義について

    人道援助には、様々なアクターが関係している。分類としては、
    @ 人道的アクター(NGO、ICRC及び各国赤十字社、UNHCR・UNICEF・WHOなどの国連機関)、
    A 政治的アクター(政府・政府機関及び国連、EUなど地域機構)、
    B 軍事的アクター(国連軍(平和維持軍)、国連の指揮下で活動する地域機構軍、地域的な軍事同盟、国軍、国軍以外の軍事組織、武装集団)、
    C 宗教的アクター(キリスト教会、イスラム教会系組織など)、
    D その他(企業や個人などの慈善的アクター)
    といった類型化が可能だが、それぞれが、独自の介入の動機、目的や優先順位を持って活動している。それゆえ現場での調整(coordination)が必須となるが、目的や立場の違いからくる差は時に埋めがたいものとなる。人道援助の定義も、人命救助を優先するという意味での人道援助、不偏不党・政治から独立した救援活動としての人道援助、復興支援・開発援助に対するものとしての人道援助、戦略援助に対する人道援助とまちまちである。そもそも人道援助とは何だろうか。

2. 人道援助と軍隊−CIMIC(=civil military cooperation軍民協力)をめぐって

    CIMICには、基本的に3つの形態があると言われる。即ち、
    @ 軍隊による直接の支援、
    A 物資や要員の警護(エスコート)、
    B 文民との情報交換
    の3種である。このようなCIMICをめぐっては2つの立場が存在する。兵站部門の活用により効率的な支援が可能とする推進派と、根本的な存在意義の相違があるという懐疑派である。後者はCIMICの弊害として、人道機関の中立性・不偏性が損なわれ人道援助の障害になる、要員の安全確保が困難になる(瞬間的な安全性が高まったとしても、大局的には、援助関係者と軍隊が同一視され危険性が高まる)、費用効率の悪さ、現地の文化やジェンダーを考慮した支援が困難である点を挙げている。例としては、アフガニスタンにおけるクラスター爆弾と食糧投下、米特殊部隊と民生部隊(国防省)、国務省やUSAID要員を加えた地域復興チーム(Provincial Reconstruction Team)の活動などが挙げられる。また、自衛隊によるイラクの人道復興支援活動に対しても、そもそも人道活動とは敵味方の差別なく行うことを原則とするが、自衛隊は負傷した武装抵抗勢力の人員をも救助するのかといった意見もある。人道援助機関と軍隊はいかなる関係を築くべきか。


3. イラク紛争に見る政府とNGOの関係−米、仏、日本を事例に

    国家にとって人道援助は、時にODA以上に極めて政治的・戦略的な意味をもつ。他方NGOの側からみれば、紛争という極めて政治的・軍事的文脈の中でいかに政治から独立し、中立な人道支援活動に徹するかは、本来その存亡にかかわる死活的問題でもある。にもかかわらず、NGOによる人道援助と政治は、元来密接な関係を築いてきた。政府から独立したNGOと言えど、特に大規模な資金投入が必要となる緊急人道支援において、資金の多くを政府に頼っており、特に9. 11以降、アフガニスタンを代表とするテロとの戦いの中で、またイラクにおける占領政策において、政治・軍事・人道活動は一体とみなされた。(「帝国のプロジェクトの不本意かつ不幸な共犯者」と呼ぶ議論さえ存在する)
    この傾向は2001年10月の「NGOの指導者のための国家外交政策会議」におけるコリン・パウェル米国務長官の「我々の戦闘チームの重要な一翼を担い、我々の戦力多重増強要員(a force multiplier)であるところのNGO」という発言に代表される。こうした立場に対して、米と欧州のNGOの立場は大きく異なる。アフガニスタンやイラク支援に対して、米政府の助成を受け、積極的にその傘下に入り、この言説を受け入れた多くの米国のNGOと、イラク戦争そのものに反対し、人道援助の政治や軍事からの独立を訴えた欧州のNGO(MSFなど)である。イラク戦争開始直前、フランスではNGOが呼びかけてイラクへの人道援助を拒否しようという運動が起きたという。イラク戦争の人道援助に参画することが、「人道援助を戦争の隠れ蓑に使う」戦略にのることになる、という論理である。
    では、イラク支援において、人道復興支援が、自衛隊派遣と「車の両輪」にも例えられたわが国の場合はどうだろうか? JPFは、今春、日本政府に対し、イラク支援事業への政府資金の追加拠出を要請した。これを受け、政府は3月5日、JPFの活動を支援・強化するため、20億円の資金拠出を決定した(うち、17億円がイラク向け、3億円はその他の地域で起こりうる災害・紛争等の人道危機対応向け)。JPFの通常年間予算は5〜6億円であるが、イラク関連のこの突出はどう考えるべきだろうか。


4. 人道援助とセキュリティ〜NGOの安全は誰が守るのか

    今日、人道援助従事者の安全確保は悪化の一途を辿っているが、人道的アクターの安全確保の担保のされ方は、その成立過程や性格によりまちまちである。
    紛争の現場で国際人道法が必ずしも遵守されないとはいえ、ICRCはジュネーブ諸条約(1949年のジュネーブ4条約、1977年の2つの追加議定書)により、国際人道法上の地位が確保され、保護が与えられている。国連要員の安全については、1994年12月、国連総会が「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」を採択した。これにより、伝統的なPKO要員やUNHCRなどの国連機関にかかわる要員がこの条約で保護の対象となった。同時に国連機関と契約関係にあるNGOは、関連要員として対象とされたが、こうした関係にないNGOは、条約の適用範囲外となった。NGOはICRC、国連機関と異なり、安全に対し、なんら法的担保を有しないことになる。NGOがいわば地球市民として人道援助を行う際のリスクは誰が背負うのか、誰に頼まれたわけでもなく、自己責任において、勝手に危険地に赴いたNGOは全ての責任を自ら引き受けるのか。


5. わが国に人道援助NGOは育ちうるか−ジャパン・プラットフォームを事例に

    そもそも日本に「人道」という概念はどの程度根付いているのだろうか。
    1949年のジュネーブ4条約へ日本政府は、1953年加入手続きを完了した(1951年のサンフランシスコ講話条約締結の際、連合国側からの求めに応じて)が、1977年の2つの追加議定書が国会において承認されたのは、本2004年6月、「有事関連7法」の可決とあわせてである。
    NGOの人道援助が、本来の意味で人道援助たるためには、政治から独立したものでなければならない。政治、国家、あるいは政治的意向をもつドナーから独立し、「国際赤十字赤新月社運動ならびにNGOのための行動規範Code of Conduct」にあるとおり、現地の必要度に応じた支援を実施するにはどうしたらよいか。MSFの前会長ロニー・ブローマンは、この問題の解決策はNGOとその責任者たちの「政治的」意志の中にあるとし、具体的には@必要度の決定に際し、自ら自由にその必要度の評価を行うことを要求し、A諸機関による融資額の多様化と上限の設定を提示している。また、介入に関するダブルスタンダードを避けるために、「プライオリティ(優先順位)をつけて選択するということはせず、難民問題や災害が発生したときにはすべてに駆けつける」という方針を示している。こうしたことの実現には、自己資金、即ち色のついていない、一般からの寄付が絶対不可欠であるが、日本の場合はどうだろうか。

    まず、日本の民間からの募金が圧倒的に多く寄せられるのは、紛争下の難民・避難民支援ではなく、地震に対する被災者支援の際である。日本赤十字社、NGOを問わず、地震に対する支援は、紛争下の人道援助、他の自然災害の場合に比べて数倍〜10倍近い額が集まることが知られている。さらに、日本において国際協力関連の寄付は日本赤十字社と日本ユニセフ協会とに集中している。JANIC発行の国際協力NGOダイレクトリー2002によれば、日本の国際協力NGO230団体の2000年度における総収入額(政府や民間財団からの補助金や助成金を含む)は約250億円、そのうち上位10団体が全体の50.5%を占め金額にして約130億円弱である。他方、同年の(財)日本ユニセフ協会に寄せられた募金は約130億円強、日本赤十字社は、170億円強である。NGO自身の経験や人材、ノウハウといった実力もさることながら、人びとが地震に対して最も関心を示し、欧米NGOなみの自己資金の確保が困難という構造的な逆境の中で、わが国に人道援助NGOは育ちうるのか。JPFはどのような可能性と限界をひめているのだろうか?


<参考文献>

    ロニー・ブローマン著、高橋武智訳、『人道援助、そのジレンマ』、産業図書、2000
    ジェームズ・オルビンスキー「ノーベル平和賞受賞記念スピーチ」3ページ、1999年12月、
    http://www.msf.or.jp/msf/nobel.php
    The Code of Conduct for the International Red Cross and Red Crescent Movement and NGOs in Disaster Relief, available at
    http://www.icrc.org/Web/Eng/siteeng0.nsf/html/57JMNB?OpenDocument#a3
    藤田久一他編、『人権法と人道法の新世紀』東信堂、2001
    日本国連HCR協会『緊急対応ハンドブック』available at http://www.unhcr.or.jp/info/handbook.html
    (財)アジア福祉教育財団 難民事業本部『スフィア・プロジェクト人道憲章と災害援助に関する最低基準』2004年版日本語版
    http://www.sphereproject.org
    Oxfam International, Oxfam Briefing Paper41, “Iraq: Humanitarian-Military Relations”2003
    日本赤十字社『赤十字関係者のための国際人道法普及入門』、2000
    Mary B. Anderson, DO NO HARM How Aid can support peace-or war, Lynne Rienner Publishers, 1999
    マイケル・イグナティエフ著、中山俊弘訳、『軽い帝国』、風行社、2003
    U.S. DEPARTMENT OF STATE, REMARKS BY SECRETARY OF STATE COLIN L. POWELL TO THE NATIONAL FOREIGN POLICY CONFERENCE FOR LEADERS OF NONGOVERNMENTAL ORGANIZATIONS (NGO), October 26, 2001,
    http://usinfo.org/wf-archive/2001/011026/epf505.htm
    小池政行『現代の戦争被害―ソマリアからイラクへ』岩波新書、2004
    長有紀枝『人道援助におけるNGOの活動:その役割、限界と可能性』「人道危機と国際介入 平和回復の処方箋」(広島市立大学広島平和研究所編)有信堂、2003





■全体討論

1. 人道援助のアクターと人道援助の定義

    ・従来から受益者を慈善の対象とする傾向があるが、受益者の主体性を尊重し、逆境においても彼らがアイデンティティとプライドを持ち続けるよう配慮することが最も重要であり、能力の開発もこの視点から人道支援の一部として組み込まれることが望ましい。
    ・人権と人道の関係の問題について、例えば、軍には人道法の教育に重点を置くが人権教育も重要である。また人権NGOと人道NGOの交錯がお互いの活動目的達成を妨げてはいけない。例えば、アムネスティ・インターナショナルが人権をプレイアップすると、緊急人道支援のアクセスが困難となる。

    長氏:
    人権は対政府との関係でありどうしても政治性を帯びてしまう。人道援助は中立、不偏不党を旨とし、とりあえずモノを届けることを優先するが、場合によっては、援助を継続するための中立性が、人権の危機的状況を見過ごす言い訳にもなりかねない状況も生じる。

2. 人道援助と軍隊(Civil-Military Cooperation)

    ・軍隊は人を殺すための組織だが、国連のPKOといった場合、同じ軍事部門でも区別されるべきではないか。その区別をどのようにするのか。

    長氏:
    軍隊の色分けについて、国連PKO、地域機構軍、多国籍軍、国軍、武装集団などの峻別が必要であろう。紛争当事者が停戦に合意していない場合や、ソマリアのような場合のNGOへのエスコートを、一口にCIMICとしてしまうのは問題かもしれない。日本をはじめ多くのNGOはCIMIC懐疑派であり、政府は推進派である。

    長氏:
    PKO、兵力引き離しなど、国連の介入があり、中立性が保たれている状況や、地元の武装勢力の協力が得られるケースで、政治的中立がある程度保たれる状況ではCIMICは可能かもしれない。
    情報交換という点に関連して、1999年6月からコソボで活動を行なった際には、NATOによるセキュリティ・ミーティングが毎日2回(状況によっては週1回)行なわれていた。これもCIMICの一例であり、CIMICのあり方はいろいろあるのではないか。もっとも、CIMICについて統一的な定義があるわけでなく、それぞれの組織によって定義がある。これも検討課題であろう。

3. 紛争下における政府とNGOの関係

    ・イラクの場合、現在の無政府状態から、テンションが下がっていったらCIMICのあり方を考える状況が生まれるだろう。
    ・ 自衛隊であるからという要素と、外から(テロ組織による混乱)の要素とどのような関係にあるか、又その程度はどうか。日本の自衛隊が駐留しているからNGOが活躍できないのか、それとも外部のテロ組織の活動が激しいからそもそも人道支援活動は難しいのか、検討する必要がある。

    長氏:
    イラクでは住民と外部の過激派との区別が難しい。過激派が入る前であれば、大丈夫ではないか。例えば、NATO空爆中のコソボ、ユーゴでは日本の国旗が赤十字のような意味合いを有していた。自衛隊が展開していなければ、日本ならではの中立性を発揮することが出来たはず。

4. NGOとセキュリティ(部分的にはCIMICと関係)

    長氏:
    基本的に日本政府は危険なところではNGOが活動することを許さない。JPF(ジャパンプラットフォーム)にも外務省との間で確認した安全原則がある。AARのチェチェンでのプロジェクトの際には、再三の退避勧告を受けていた。そこでは、人道支援関係者の生首が並ぶ状況があり、ICRCスタッフ6人が虐殺され、UNスタッフが拘束されるといった事態も発生していた。一旦すべての援助団体が撤退した後、デンマークの団体Danish Refugee Councilが政府の支援により再開を果たした。安全確保として護衛を雇う、宿舎の塀の建設といった安全管理を政府の予算によって行なった。事業としてはUNHCRのロジを行なったのだが、危険な状況に対して、NGOへの協力体制をとる国と撤退させる国との相違がある。

5. 日本で人道援助NGOは育ち得るのか?

    ・JPFにおける政府、財界、NGOの比率

    長氏:
    JPFは当初、政府および経済界からの資金で活動する予定であったが、経済状況の悪化もあり、現在は政府資金が圧倒的である。特にこの傾向は人道支援において顕著だが、地震に際しては、経済界からの支援も多い。人道支援においては9割が政府だが、イランのような地震のときは政府と財界が半々の割合になる。NGOからは事務局費用の持ち寄りになっている。このような政府の役割が大きい現状を懸念し、入会しない団体も有る。

    ・地震への支援が多いのは日本だけなのか? 紛争、地域の住民が被害者のみならず加害者でもある場合、地域住民の責任を問う姿勢は資金の動きにつながるのか?

    長氏:
    地震については地震大国日本だから、紛争よりも身近なものとして捉えられるのではないか。紛争に関して、旧宗主国やヨーロッパ内などある人びとにとっては責任という認識から支援をしているのかもしれない。日本の実感として、地震は支援の層が広く、紛争への人道支援は戦争体験者からの資金提供が多いように思う。募金について、または資金調達について欧米との税制の違いがあることを含めて、資金難の克服が難しい。例えば、ユニセフ協会は、教育界、マスコミ、財界など多くを巻き込むことで成功を収めている。公共の部分は官の仕事という認識があるため、ユニセフはそれを巻き込む、あるいはそのようなイメージを民衆に訴えることで成功したといえる。NPOの裾野を広げるうえで税制改革の必要性は大きいが、NPOの名をかたる人々との区別が難しい。

総括

    ・ 人道援助という観点で、イラクの状況は人道援助さえ実施できない状況もある。
    ・ ある程度紛争が落ち着いてくると、政府の軍事介入との関係でNGOがどのような影響を受けるのかという問題が生じる。その際に現状では、NGOによる支援が100%自己責任になってしまっている。しかし、世界的に何らかのセーフティネットが必要である。
    ・ CIMICについては、軍隊といっても種類の多様化、機能の多様化、なにがイシューなのかを整理する必要がある。軍事に対する感情に走ってはいないか、検討する必要。そこではNGOとの協力、パラレルな関係など色々な関係性があり得るのではないか。
    ・ NGOについては資金の問題が大きく、人道援助のパフォーマンスを集金能力ではかってはいないか? 集金ではなく、結果重視、結果主義であるべきではないか? 開発のみならず、人道援助もまた結果重視、結果主義であるべきだろう。
    ・ 人道援助の対象として、援助される側が主体になるかどうかの問題がある。長期的に見ると、平和構築、開発、再発予防のためには、客体を主体としてとりこんで行く仕組みが重要。
    ・ 緊急援助NGOがその他のCSO、NGOと協力できる分野とコンフリクトを起こす分野、(例、人権・人道・開発)を整理して、関係性を問う必要があろう。

(記録:村上裕公)



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